
「ペアレント・プログラム(ペアプロ)」という言葉を聞いたことがありますか?ペアレント・トレーニング(ペアトレ)と似た名前ですが、目的も内容も異なる別のプログラムです。
この記事では、ペアレント・プログラムの全容を解説し、ペアレント・トレーニングとの違いを明確にします。
ペアレント・プログラムとは
ペアレント・プログラムは、子育てに難しさを感じる保護者が、子どもの「行動」の客観的な理解の仕方を学び、楽しく子育てに臨む自信をつけることを目的とした全6回のグループ・プログラムです。
NPO法人アスペ・エルデの会の辻井正次教授(中京大学)が中心となり開発し、平成25年度(2013年)の厚生労働省・障害者総合福祉推進事業の一環としてマニュアルが整備されました。
3つの基本的な柱
- 「行動」で考える — 子どもの性格や特性ではなく、具体的な「行動」に注目する
- 褒めて対応する — 叱るのではなく、できていることを見つけて褒める
- 仲間を見つける — 孤立している保護者に子育ての仲間を見つける場を提供する
ペアトレとの決定的な違い
| 項目 | ペアレント・プログラム | ペアレント・トレーニング |
|---|---|---|
| 位置づけ | 入門・最初のステップ | より専門的・応用的 |
| 目的 | 親の認知を肯定的に変える | 子どもの行動を改善する具体的スキルの習得 |
| 対象 | 子育てに困難を感じるすべての保護者 | 主に発達障害のある子どもの保護者 |
| 回数 | 全6回(隔週・各60〜90分) | 全5〜10回(方式による) |
| 実施者 | 保育士・保健師でもOK | 心理士等の専門職が望ましい |
| 内容の深さ | 行動を客観的に捉える「認知の修正」 | 行動理論に基づく対応スキルの習得 |
| 診断の有無 | 不問 | 発達障害の診断・傾向があることが多い |
つまり、ペアレント・プログラムはペアレント・トレーニングの「入り口」です。まずペアプロで「行動で考える」基本姿勢を身につけ、さらに具体的なスキルを学びたい方がペアトレに進む、という段階的な設計になっています。
全6回の各回テーマと内容
第1回:現状把握表を書く!
「現状把握表」に自分と子どもの「いいところ」「努力しているところ」「困ったところ」を書き出します。すべて具体的な動詞(行動)で書くのがルールです。
例えば「明るい」ではなく「明るくあいさつをする」、「落ち着きがない」ではなく「椅子に座り続けずに立ち歩く」のように書きます。
第2回:行動で書く!
行動の記述をさらに精緻化します。2つの行動が含まれる文章は2つに分けます。例えば「朝早起きして朝ごはんをつくる」は「朝早起きする」と「朝ごはんをつくる」に分離します。
第3回:同じカテゴリーをみつける!
現状把握表の行動をカテゴリーに分類します。
- 自分編:家事・仕事・育児・生活習慣・健康管理・人付き合い・不注意・気持ちの調節
- 子ども編:睡眠・食事・着替え・トイレ・人とのかかわり・言葉・気持ちの調節・行動の調節
分類を通じて、自分と子どもの行動の傾向やパターンが客観的に見えてきます。
第4回:ギリギリセーフ!をみつける!
「困ったところ」の行動について、完全にできなくても「まあOK」と言えるライン(ギリギリセーフ)を見つけます。ペアで話し合いながら、自分の「完璧でなくても大丈夫」というラインを探ります。
第5回:ギリギリセーフ!をきわめる!
さまざまな場面を想定して、どんな状況で「ギリギリセーフ」になるかをさらに詳しく検討します。場面ごとの具体的な対応を考えることで、日常生活での実践力を高めます。
第6回:ペアプロでみつけたことを確認する!
第1回・第2回の現状把握表と見比べながら全体を振り返ります。プログラムを通じて、子どもの見方がどのように変わったかを確認し、行動に注目することの大切さを改めて学びます。
効果とエビデンス
ペアレント・プログラムの効果として、以下が報告されています。
- 養育ストレスの軽減 — 育児のストレスが低減する
- 認知の肯定的変化 — 子どもの行動を「困った性格」ではなく「具体的な行動」として客観視できるようになる
- 自己肯定感の向上 — 育児への自信が高まる
- 叱ることの減少・褒めることの増加 — 肯定的な関わりが自然と増える
注目すべき点として、保育士が実施した場合でも効果が確認されており、心理の専門家でなくても有効にプログラムを実施できることが実証されています。
どこで受けられる?
ペアレント・プログラムは全国の自治体で広がりつつあります。以下の場所で実施されていることが多いです。
- 都道府県の発達障害者支援センター
- 市町村の子育て支援課・障害福祉課
- 児童発達支援センター
- 保健センター
お住まいの自治体の子育て支援窓口や発達障害者支援センターにお問い合わせください。
ペアレント・プログラムの特色と強み
ペアレント・プログラムには、ペアトレにはない独自の強みがあります。
専門家でなくても実施できる
ペアトレは心理士などの専門職による実施が望ましいとされますが、ペアプロは保育士や保健師でも実施可能です。これにより、専門家が不足している地域でも提供しやすく、全国的な普及が進んでいます。マニュアルが整備されており、研修を受けた実施者であれば安定した品質でプログラムを提供できます。
全6回のコンパクトな構成
ペアトレの全5〜10回に比べ、ペアプロは全6回と比較的コンパクトです。忙しい保護者にとっても参加しやすい設計になっています。隔週開催が基本なので、約3ヶ月で修了できます。1回あたりの時間も60〜90分と短めで、仕事の合間や園のお迎え前に参加できるスケジュールの講座も多いです。
「自分自身」も振り返れる
ペアプロの大きな特色は、子どもの行動だけでなく保護者自身の行動も現状把握表に書くことです。「自分の困っているところ」を行動として客観視することで、自己理解が深まります。「子どもに似ている部分がある」「自分自身もこだわりが強い」と気づく方も少なくありません。自分を知ることが、子どもを理解することにもつながります。
ペア・ワークによる仲間づくり
ペアプロでは毎回、参加者同士でペアを組んで話し合う時間が設けられています。「同じような悩みを持つ人がいると知って安心した」「具体的なアドバイスをもらえた」という声が多く、孤立しがちな子育ての中で仲間を見つける場としての役割も大きいです。特に「グレーゾーン」のお子さんの保護者は、周囲に相談しづらい悩みを抱えていることが多く、ペアプロの仲間づくりの機能は非常に貴重です。
ペアレント・プログラムの課題と今後の展望
ペアプロは急速に普及している一方で、いくつかの課題も指摘されています。
- 認知度の低さ:ペアトレに比べてまだ一般にはなじみが薄く、「ペアプロ」で検索しても情報が少ない状況です
- 実施機関のばらつき:自治体によって実施の有無や頻度に差があり、受けたくても近くで開催されていないケースがあります
- オンライン版の整備:コロナ禍以降、オンラインでの実施も始まりましたが、ペア・ワークの質をどう担保するかが課題です
- ペアトレへの接続:ペアプロ受講後にペアトレに進みたいと思っても、地域にペアトレの講座がないというケースもあります
今後は、オンライン版の開発やペアトレとの接続体制の整備が進むことが期待されています。保護者支援の入り口としてのペアプロの役割は、ますます重要になっていくでしょう。
ペアレント・プログラムの受講体験エピソード
実際にペアレント・プログラムを受講した保護者の声を紹介します。
【Eさん・3歳児の母】
「第1回で現状把握表を書いたとき、『困ったところ』ばかりが浮かんできて、自分でもショックでした。でも、スタッフに『行動で書いてくださいね』と言われて具体的に書き直していくうちに、『待てないけど、自分でスプーンを使ってご飯を食べる』など、できていることもたくさんあることに気づきました。6回を終えたとき、子どもは何も変わっていないのに、私自身の見方がまったく変わっていました。」
【Fさん・5歳児の父】
「妻に『一緒に行ってほしい』と言われて参加しました。最初は面倒だと思っていたのですが、『ギリギリセーフ』の回で、完璧じゃなくてもいいんだという考え方を学んでから、仕事から帰ってきた後のイライラが減りました。他のお父さんと話せたのも良かったです。男性の参加者は少なかったですが、男性同士ならではの悩みを共有できました。」
ペアプロからペアトレへ:段階的な支援の流れ
ペアレント・プログラムとペアレント・トレーニングは、厚生労働省が推進する「保護者支援の3本柱」の一部として位置づけられています。
- ペアレント・プログラム(入門):子どもの行動を客観的に捉える「見方」を学ぶ。全6回。保育士・保健師でも実施可能
- ペアレント・トレーニング(実践):行動理論に基づく具体的な「スキル」を身につける。全5〜10回。心理士等の専門職が実施
- ペアレント・メンター(継続支援):発達障害のある子の子育て経験を持つ親が、同じ立場の親を支えるピアサポート
ペアプロを受講した後に「もっと具体的なスキルを学びたい」と感じた方は、ペアレント・トレーニングへの受講をおすすめします。ペアプロで身につけた「行動で考える」視点があるため、ペアトレの内容がより深く理解できるようになります。ペアトレの受講の流れを確認してみてください。
年齢別・ペアプロの活用ポイント
乳幼児期(0〜3歳)の保護者
「うちの子、発達が遅れているのかも?」と漠然とした不安を抱えている時期にこそ、ペアプロは有効です。行動を客観的に記録・分類する方法を学ぶことで、「不安」が「具体的な理解」に変わります。1歳半健診や3歳児健診で「経過観察」と言われた方にもおすすめです。
幼児期〜学童期(4〜10歳)の保護者
園や学校での集団生活が始まり、「うちの子は他の子と違うのでは」と感じる場面が増える時期です。ペアプロで「行動で考える」力を身につけると、先生との面談や相談機関でのやり取りもスムーズになります。「困ったところ」を行動として具体的に説明できるようになるため、適切な支援につながりやすくなります。
思春期以降の保護者
思春期のお子さんとの関係に悩んでいる保護者にとっても、「行動で考える」視点は有用です。「反抗的だ」「やる気がない」と感じていた子どもの姿を、具体的な行動に分解して考えられるようになります。また、現状把握表に「自分自身」のことも書くため、保護者自身の行動パターンを振り返るきっかけにもなります。
よくある質問(Q&A)
Q1. ペアレント・プログラムとペアレント・トレーニング、どちらから受けるべきですか?
A. 迷っている場合は、まずペアレント・プログラムから始めることをおすすめします。ペアプロで「行動で考える」基本的な視点を身につけてからペアトレに進むと、より効果的にスキルを習得できます。ただし、すでにお子さんに発達障害の診断があり、具体的な対応スキルを早急に必要としている場合は、直接ペアトレを受講しても問題ありません。
Q2. 発達障害の診断がなくても受けられますか?
A. はい。ペアレント・プログラムは「子育てに困難を感じるすべての保護者」を対象としています。発達障害の診断は不要です。「何となく育てにくい」「他の子と比べて気になることがある」という段階でも、気軽に参加できます。
Q3. 夫婦で一緒に参加できますか?
A. 講座によっては夫婦での参加が可能です。むしろ、夫婦で受講すると家庭内で子どもの行動に対する見方を共有でき、より効果的です。ただし、定員の関係で1家庭1名としている講座もありますので、事前に確認してください。
Q4. 費用はいくらくらいかかりますか?
A. 自治体が主催する場合は無料のことが多いです。民間の実施機関では、全6回で数千円〜1万円程度のところが一般的です。ペアトレの費用も含めた比較はペアトレの費用ガイドをご参照ください。
まとめ:こんな方にペアレント・プログラムがおすすめ
- 子育てに漠然とした不安や困難を感じている方
- お子さんの発達が少し気になるが、診断は受けていない方
- ペアレント・トレーニングに興味があるが、まずは気軽に始めたい方
- 同じ悩みを持つ保護者との交流の場がほしい方
まずは気軽に一歩を踏み出してみましょう。全国のペアトレ・ペアプロの開催情報もぜひチェックしてください。
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