基礎知識

日本におけるペアトレの歴史と発展 — 1960年代のアメリカから令和の法制化まで

日本におけるペアトレの歴史と発展

ペアレント・トレーニング(ペアトレ)は、60年以上の歴史を持つ科学的なプログラムです。アメリカで生まれ、日本に渡り、独自の進化を遂げてきました。この記事では、その歴史を時系列で辿ります。

1960年代:アメリカでの誕生

ペアレント・トレーニングの起源は、1960年代のアメリカに遡ります。行動療法の発展とともに、「親は子どもの最良の治療者になれる」という考え方が広まりました。

知的障害や自閉症のある子どもの療育において、専門家だけでなく保護者にも行動療法の技術を教え、家庭でも一貫した対応ができるようにする — これがペアトレの原点です。

1970〜80年代:UCLAプログラムの確立

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で、ADHD(注意欠如多動症)の子どもの保護者向けプログラムが体系化されました。厚生労働省の『ペアレント・トレーニング実践ガイドブック』は、精研・まめの木・奈良式の系統について「米国のUCLAで開発されたADHDのある子どもの保護者向けのプログラムを基礎としており」と書いています(表3・p.23)[1]。実施元のまめの木クリニックも、自院のプログラムを「カリフォルニア大学ロサンゼルス校でシンシア・ウィッタム氏が長年にわたって行っているプログラムを日本の現状にあわせて調整したもの」と説明しています[2]。(このプログラムが体系化された年代を「1970〜80年代」と特定できる一次資料は、本稿では確認できませんでした。)

日本で公開されている全10回のプログラム(まめの木クリニック公式。厚労省ガイドブック p.33 の同院の表とも一致)は、第1回 行動を3つに分ける → 第2回 好ましい行動を増やす → 第3・4回 好ましくない行動を減らす(上手な無視) → 第5・6回 効果的な指示の出し方 → 第8回 制限を設けるという順に進みます[1][2]。(当サイトは以前これを「UCLAプログラムの特徴」として書いていましたが、UCLA 側の一次資料は確認できていません。上の順序は日本で公開されている実施元の回次です。また、行動の3分類の呼び名は資料によって異なり、厚労省の支援者用マニュアルは第2回を「子どもの行動観察と3つのタイプ分け」とし、3つを「増やしたい行動」「減らしたい行動」「許しがたい行動」としています[3]。)

1990年代前半:日本への導入

1990年代前半、佐賀県の国立肥前療養所(現・肥前精神医療センター)が、知的障害を伴うASD(自閉スペクトラム症)のある子どもの家族を対象に、行動療法に基づくペアレント・トレーニングを開始しました。(「日本で最も早く導入した」と断定できる記述は厚労省ガイドブックにはありません。同書 3-1 は「わが国においても、1990年代から肥前式、精研式、奈良式、鳥取大学式…といった…プログラムが発展してきました」と並べて書いています(p.9)。)

肥前式の特徴は、保護者を「共同治療者(コ・セラピスト)」として育てる点にあります(厚労省ガイドブック 表3 p.23「知的障害をともなうASDの子どもの保護者を共同治療者として育てるプログラムから出発し」)[1]。実施元の肥前精神医療センターは、プログラムの目的を「①「生活技術の効果的な指導方法」を学ぶ ②「困った行動への効果的な対応」を学ぶ」の2つとしています[10]。(当サイトは以前ここに「課題分析(タスクアナリシス)」を挙げていましたが、その語は厚労省ガイドブックの肥前式の欄にも実施元の募集パンフレットにも見当たりません。落としました。)詳しくは肥前式ペアレントトレーニングへ。

1990年代後半:精研式・奈良方式の開発

厚労省ガイドブックは「わが国においても、1990年代から肥前式、精研式、奈良式、鳥取大学式…といった、発達障害のある子どものペアレント・トレーニング・プログラムが発展してきました」と、4方式を並べて書いています(p.9)[1]。(「前半=肥前/後半=精研・奈良・鳥取」という区分は原典にはありません。当サイトの整理です。)

精研式

国立精神・神経センター精神保健研究所(現NCNP)の上林靖子先生らが、UCLAプログラムを日本の文化に合わせて改編しました。ADHD児の保護者を主な対象とし、全10回の体系的なプログラムとして確立。国内で広く実施されるペアトレとなりました。(「日本で最も普及している」と断定できる記述は厚労省ガイドブックにはありません。表3 は3つのプログラムを並列に紹介しています。)

奈良方式

岩坂英巳先生が、同じくUCLAプログラムをベースに奈良で実践を重ねてきた流れです。「子どもの良いところ探し」から始まる構成や、学校との連携(ティーチャー・トレーニング)への発展が特徴とされます。(岩坂先生の所属は、日本ペアレント・トレーニング研究会の公式プロフィールでは1987年 奈良県立医科大学精神医学教室 入局(助手・講師)→ 2004年 奈良教育大学教授(2007年 特別支援教育研究センター長)→ 2016年 ハートランドしぎさんです[4]。当サイトは以前ここを「奈良教育大学の岩坂英巳先生が(1990年代後半に)開発」と書いていましたが、1990年代後半の時点では奈良教育大学の所属ではありません。訂正しました。)詳しくは奈良方式ペアレントトレーニングへ。

鳥取大学式

井上雅彦先生による、応用行動分析(ABA)を土台としたプログラムです。厚労省ガイドブックの表3 は、鳥取大学式について「応用行動分析に基づいて知的障害をともなうASDのある子どものコミュニケーションスキルや適応的な行動の獲得を親が学習するプログラムの開発から始まり、現在は発達障害全般を対象とするプログラムに発展した」「不適切な行動への対応は環境調整と代わりとなる望ましい行動の獲得におく」と書いています(p.23)[1]。(井上先生の所属は、研究会の公式プロフィールでは1992年 兵庫教育大学 学校教育学部附属障害児教育実践センター 助手 → 1999年 同 附属発達心理臨床研究センター 助教授 → 2005年 兵庫教育大学大学院 准教授 → 2008年 鳥取大学大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授です[4]。当サイトは以前ここを「同時期に、鳥取大学の井上雅彦先生が…開発」「視覚支援や構造化に特化」と書いていましたが、1990年代後半の時点では鳥取大学の所属ではなく、「視覚支援に特化」という記述も厚労省ガイドブックにはありません。訂正しました。)詳しくは鳥取大学式ペアレントトレーニングへ。

2000年代:養成研修の展開と全国への普及

精研式を開発した上林靖子先生が開いたまめの木クリニック・発達臨床研究所(東京都江戸川区)で、当時のスタッフがプログラムと研修を継続するようになりました。ファシリテーター(リーダー)養成研修を通じて実施者が育成され、自治体での実施が全国へ広がっていきます。

この頃から、ペアトレの対象はADHDだけでなく、発達障害全般、さらには子育て困難を抱える保護者全般へと広がっていきました。

2013年:ペアレント・プログラムの開発

厚労省の障害者総合福祉推進事業として、辻井正次先生(中京大学 現代社会学部。厚労省ガイドブックの事業委員[1])を中心にペアレント・プログラムが開発されました。厚労省ガイドブックは、ペアプロを「子どもの行動修正までは目指さず、『保護者の認知を肯定的に修正すること』に焦点を当てた簡易的なプログラム」と説明しています(p.6)[1]。(開発年を「2013年」と特定できる一次資料は本稿では確認できませんでした。厚労省ガイドブックが挙げる参考図書は「アスペ・エルデの会『楽しい子育てのためのペアレント・プログラムマニュアル 2015-2020』」です。)

2019〜2020年:国による標準化

厚労省の障害者総合福祉推進事業の助成を受けて、JDDnet(一般社団法人日本発達障害ネットワーク)が2つの重要な資料を作成しました。

これにより、各方式に共通する「基本プラットホーム」と6つのコアエレメントが整理されました(原典の表記は「基本プラットホーム」です)。(この2冊は厚労省が告示や通知で定めた基準ではなく、国の推進事業の助成を受けて一般社団法人 日本発達障害ネットワーク(JDDnet)が作成した手引きです[1]。)

2022年:児童福祉法改正と法制化

令和4年(2022年)の児童福祉法改正により、「親子関係形成支援事業」が新設されました(児童福祉法 第6条の3第21項に定義)[5]。こども家庭庁の「親子関係形成支援事業実施要綱」は、事業の内容を「当該保護者に対して、講義、グループワーク、個別のロールプレイ等を内容としたペアレント・トレーニング等を実施するとともに…」と定めており[6]、ペアトレが法律に根拠をもつ事業の中で位置づけられました。

2023年〜現在:こども家庭庁とさらなる展開

令和5年(2023年)4月にこども家庭庁が発足し(こども家庭庁設置法 附則「この法律は、令和五年四月一日から施行する。」)[7]、ペアトレを含む子ども関連施策の所管が移管されました。令和6年度からは親子関係形成支援事業が全国の市町村で施行開始されています。

また、NCNP(国立精神・神経医療研究センター)は医療機関の専門職を対象に「医療機関における注意欠如・多動症(ADHD)児の親へのペアレント・トレーニング実施者養成研修」を開催しています(第1回:令和4年7月5日[8]/第2回:令和5年7月4日[9]、いずれもオンライン)。支援者向けの研修動画は、国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターが無料で公開しています。

日本独自の発展:海外プログラムをどうローカライズしたか

日本のペアトレは、単にアメリカのプログラムを翻訳しただけではありません。日本の家庭文化や子育て環境に合わせた独自の工夫がなされています。

「褒める文化」のギャップへの対応

アメリカのペアトレでは「褒める(Praise)」が中心的なスキルとして位置づけられていますが、日本では「褒める」ことに慣れていない保護者が多い傾向があります。「褒めるとつけ上がる」「当たり前のことを褒める必要はない」という価値観を持つ保護者も少なくありません。日本版プログラムでは、こうした抵抗感に配慮しながら、段階的に褒め方のスキルを導入する工夫がなされています。

集団主義的な教育観との調和

日本の学校教育は「みんなと同じことができる」ことを重視する傾向があります。ペアトレでは「その子に合った目標を設定する」個別化のアプローチを取りますが、学校の求める基準との間でジレンマが生じることがあります。奈良では、岩坂英巳氏らが「ティーチャー・トレーニング」の研究にも取り組んでいます(大西貴子・武藤葉子・岩坂英巳「ティーチャー・トレーニング・プログラムによる保育者支援に関する研究 第一報」奈良教育大学『次世代教員養成センター研究紀要』第1号, 2015年, pp.83-90)[13]。(この論文が扱っているのは保育者への支援で、学校教師向けの併設プログラムとして確認できたものではありません。)学校・教育現場でのペアトレも参考にしてください。

祖父母世代・家族全体への拡張

三世代同居や祖父母の育児参加が多い日本では、保護者だけでなく祖父母世代への働きかけも重要です。近年は「祖父母向け研修」や「家族全体で学ぶペアトレ」の形態も広がりつつあります。家族間で対応が一貫しないと効果が薄まるため、祖父母世代を含めた家族全体の理解促進が日本の課題として認識されています。

ペアトレの歴史から見える今後の展望

60年以上の歴史を振り返ると、ペアトレは時代のニーズに合わせて常に進化してきたことが分かります。今後の展望として、以下のような動きが注目されています。

  • デジタル化・オンライン化:コロナ禍をきっかけにオンラインでの実施が広がりました。地理的な制約なく受講できるオンライン講座は、今後さらに普及していくでしょう
  • 対象の拡大:発達障害だけでなく、育児ストレスを抱える保護者全般、不登校の子どもの保護者、かんしゃくに悩む保護者など、対象がますます広がっています
  • 多文化対応:外国にルーツを持つ家庭が増える中、多言語対応のプログラムの必要性が高まっています
  • アプリの活用:鳥取大学の井上研究室は、機能的アセスメントのための統合型Webアプリ「Observations 3」、ABC行動観察記録の「Observation Sheet」、スキャタープロット記録の「Observations」、行動支援計画立案の「Strategy Sheet」を公開しています[11]。(当サイトは以前ここに「ホームワークの記録…をサポートするアプリ」と書いていましたが、公開されているのは行動観察・支援計画のためのアプリで、ホームワーク記録への対応は明記されていません。落としました。)
  • エビデンスのさらなる蓄積:日本独自のプログラムの効果研究が蓄積されています。たとえば肥前式の原著(免田賢ほか, 1995)は英文題を “Development and Outcome of the Hizen Parenting Skills Training Program for Mothers of Children with Mental Retardation” として英文抄録を付けています[12]。(「国際的にも発信されるようになっています」と言えるだけの網羅的な裏づけは本稿では取れていません。上は一例です。)

よくある質問(Q&A)

Q1. 日本のペアトレ方式はどれを選べばいいですか?

A. 基本的には「お住まいの地域で受けられるもの」を選ぶのが現実的です。厚労省ガイドブックは3つのプログラムについて「これまでの実践と研究で一定の成果が認められています」としたうえで、「参考図書を参照してそれぞれの機関や施設の状況や目的に合わせて参考にしてください」と書いています(p.22)[1]。共通の土台として同書が示すのが6つのコアエレメントで、表1「コアエレメントの内容」(p.12-13)に①子どもの良いところ探し&ほめる ②子どもの行動の3つのタイプわけ ③行動理解(ABC分析)④環境調整(行動が起きる前の工夫)⑤子どもが達成しやすい指示 ⑥子どもの不適切な行動への対応 の6つが並びます[1]。(当サイトは以前ここに「どの系統も科学的な基盤は共通しており、効果に大きな差はありません」「厚労省のガイドブックで定められた」「どの方式でも安心して受講できます」と書いていましたが、方式間の効果を比較した記述はガイドブックにありません。また同書は厚労省が定めた基準ではなく、国の推進事業の助成を受けて日本発達障害ネットワーク(JDDnet)が作成した手引きです。撤回します。)選び方はペアトレの方式を比較、制度上の位置づけは厚労省ガイドブック解説へ。

Q2. 昔のペアトレと今のペアトレは違うのですか?

A. 基本原理(行動の原理に基づく関わり方)は変わっていませんが、対象や実施方法は大きく変化しました。国内の3系統は、厚労省ガイドブックの表3(p.23)によれば、精研・まめの木・奈良式が「当初はADHDにともなう親子関係の悪化の改善と予防」、肥前式が「知的障害をともなうASDの子どもの保護者を共同治療者として育てるプログラムから出発」、鳥取大学式が「知的障害をともなうASDのある子ども…のプログラムの開発から始まり」と、いずれもADHDか知的障害をともなうASDを起点にしています[1]。現在は現在はグレーゾーンの子どもの保護者や、定型発達の子どもの育てにくさに悩む保護者も広く対象としています。また、オンライン実施やアプリの活用など、テクノロジーの進歩も取り入れられています。

Q3. ペアトレは今後もっと身近になりますか?

A. はい。2022年の児童福祉法改正で「親子関係形成支援事業」が法定化されたことは、大きな転換点です。国の施策として位置づけられたことで、全国の市町村で実施される体制が整備されつつあります。「ペアトレはどこで受けられる?」という時代から、「どの地域でも受けられる」時代への移行が進んでいます。お近くのイベント一覧もチェックしてみてください。

Q4. ペアトレの歴史を学ぶ意味はありますか?

A. 歴史を知ることで「なぜこのプログラムが今の形になったのか」を理解でき、受講のモチベーションが高まります。また、ペアトレが「誰かの思いつき」ではなく「60年以上の科学的研究に裏打ちされた方法」であることを知ると、安心して取り組めるようになるでしょう。体験談を読むと、歴史と実践がつながって見えてきます。

各方式の詳しい特徴と比較

日本で実践されている主要なペアトレ方式について、もう少し詳しく見てみましょう。それぞれに独自の強みがあり、お子さんの特性や家庭の状況によって適した方式が異なります。

肥前式:1990年代前半に始まった日本版ペアトレ

肥前式は、知的障害をともなう自閉スペクトラム症のお子さんの保護者を共同治療者(コ・セラピスト)として育てるプログラムから出発しました(厚労省ガイドブック 表3 p.23)[1]。実施元の肥前精神医療センターは、目的を「①「生活技術の効果的な指導方法」を学ぶ(例:離席をせずにごはんを食べる、体を自分で洗う) ②「困った行動への効果的な対応」を学ぶ(例:宿題に30分で取りかかる、8時までに朝の準備をする)」の2つとしています[10]。いまも同センターの外来プログラムとして続いています。(当サイトは以前ここで「最大の特徴は『課題分析(タスクアナリシス)』の手法です」と書いていましたが、その語は厚労省ガイドブックの肥前式の欄にも実施元の募集パンフレットにも見当たりません。落としました。)

精研式:国内で広く実施されているプログラム

精研式は、ADHDの子どもの保護者を主な対象とした全10回のプログラムです。行動の3分類から始まり、褒め方、CCQ(穏やかに・近づいて・静かに)による指示の出し方、計画的無視、環境調整、トークンエコノミーと段階的にスキルを学んでいく構成が特徴です。多くの自治体や医療機関で採用されており、研修体制も充実しています。

奈良方式:学校との連携を重視

奈良方式は「子どもの良いところ探し」からスタートする点が特徴的です。保護者が子どもの良い面に目を向けることから始めるため、受講のハードルが低く、「褒めることが苦手」という保護者にも取り組みやすい設計です。また、「ティーチャー・トレーニング」として教師向けのプログラムも開発されており、学校と家庭の連携を重視したアプローチが取られています。

鳥取大学式:応用行動分析が土台

井上雅彦先生らによる鳥取大学式は、応用行動分析(ABA)を土台としています。厚労省ガイドブック 表3 は「応用行動分析に基づいて知的障害をともなうASDのある子どものコミュニケーションスキルや適応的な行動の獲得を親が学習するプログラムの開発から始まり、現在は発達障害全般を対象とするプログラムに発展した」「不適切な行動への対応は環境調整と代わりとなる望ましい行動の獲得におく」「補助治療者としてのペアレント・メンターの参加も推奨している」と書いています(p.23)[1]。(当サイトは以前ここで「ASD特性に特化」「視覚的支援や環境の構造化に特化」「感覚過敏への対応」と書いていましたが、いずれも厚労省ガイドブックの鳥取大学式の欄にはありません。訂正しました。)各回のテーマは鳥取大学式ペアレントトレーニングへ。

まめの木クリニック:養成研修による実施者の育成

まめの木クリニック・発達臨床研究所(東京都江戸川区)で実施されているのは精研式そのもので、厚労省ガイドブックにも「精研式プログラムを全10回1クールで行っている」と記載されています。「まめの木式」と呼ばれることがありますが、別のプログラムでも精研式の短縮版でもありません。同研究所はファシリテーター(リーダー)養成研修を継続的に開催しており、実施者の育成を通じて全国への普及を支えてきました。ADHDに限定せず、発達障害全般を対象としている点も普及の要因です。

ペアトレの歴史を動かした人々

日本のペアトレの発展は、多くの研究者・臨床家の尽力によるものです。上林靖子先生(精研式)、岩坂英巳先生(奈良方式)、井上雅彦先生(鳥取大学式)、辻井正次先生(ペアレント・プログラム)など、各方式の開発者たちは互いに交流しながら、日本の家庭に合ったプログラムを模索し続けてきました。

こうした先人たちの努力があったからこそ、2022年の法制化という大きな成果につながりました。ペアトレに取り組む保護者一人ひとりが、この歴史の延長線上にいることを忘れないでいただきたいと思います。受講を検討している方は、歴史と科学に裏打ちされたこのプログラムに、安心して飛び込んでください。

年表まとめ

年代出来事
1960年代アメリカで行動療法に基づくペアトレが誕生
1970〜80年代UCLAでADHD児の保護者向けプログラムが体系化
1990年代前半肥前式ペアトレの開始 — 国立肥前療養所(佐賀県)
1990年代後半精研式・奈良方式・鳥取大学式の開発
2000年代養成研修の展開と全国普及の加速
2013年ペアレント・プログラムの開発(厚労省事業)
2019年厚労省「ペアレント・トレーニング実践ガイドブック」作成
2020年「支援者用マニュアル」作成
2022年児童福祉法改正 — 「親子関係形成支援事業」法定化
2023年こども家庭庁発足
2024年〜親子関係形成支援事業の全国施行

60年以上の歴史を経て、ペアトレは法律に根拠をもつ事業の中に位置づけられました。今後さらに身近な地域で受けられるようになることが期待されています。

この記事で確認できなかったこと

  • 「1970〜80年代」にUCLAでプログラムが体系化された、という年代:厚労省ガイドブックは「米国のUCLAで開発された…プログラムを基礎としており」と書くだけで、年代は示していません。見出しの年代は当サイトの整理です
  • UCLAプログラムそのものの内容:UCLA 側の一次資料に当たれていません。本文に挙げた回次は、日本の実施元(まめの木クリニック公式/厚労省ガイドブック p.33)のものです。当サイトが以前これを「UCLAプログラムの特徴」として書いていたのは誤りでした。撤回します
  • 「1990年代前半=肥前/後半=精研・奈良・鳥取」という区分:厚労省ガイドブック p.9 は4方式を並べて「1990年代から」とだけ書いています
  • まめの木クリニックでの養成研修が「2000年代」に始まったこと:同院が研修を行っていることは公式サイトで確認できますが、開始時期は確認できませんでした
  • ペアレント・プログラムの開発年「2013年」:確認できませんでした。厚労省ガイドブックが挙げる参考図書は「マニュアル 2015-2020」です
  • 「行動の3分類」の呼び名:前回この欄に「統一された呼称を定めた一次資料は確認できていません」と書いたのは、当サイトの見落としでした。厚労省ガイドブックの表1「コアエレメントの内容」(p.12)が「子どもの行動を、『好ましい行動』、『好ましくない行動』、『許しがたい行動』の3つに分け」と明記しています。訂正します。なお厚労省の支援者用マニュアル(基本プラットホームの標準モデル)は第2回で「増やしたい行動/減らしたい行動/許しがたい行動」を使っており、2資料で呼び方が違う点はそのままです
  • UCLA/ウィッタム氏の原著の中身:書誌は確認できました(Cynthia Whitham, Win the whining war & other skirmishes: a family peace plan, Los Angeles: Perspective Publishing, 1991, ISBN 0-9622036-3-7, 216コマ/対象は2〜12歳)[14]。ただし公開されているスキャンは閲覧制限つきで本文を読めず、プログラムの回次や3分類が原著にどう書かれているかは確認できていません
  • 「褒めるとつけ上がる」「当たり前のことを褒める必要はない」という価値観を持つ保護者が少なくない:出典を確認できていません。当サイトの記述です
  • 日本の学校教育の集団主義的な傾向とペアトレの個別化のジレンマ:出典を確認できていません
  • 「祖父母向け研修」「家族全体で学ぶペアトレ」が広がりつつあること:出典を確認できていません
  • 今後の展望に挙げた「デジタル化・オンライン化」「対象の拡大」「多文化対応」:個々に一次資料を当ててはいません

出典

いずれも2026年9月4日に本文を開いて確認しています。

  1. [1] 『ペアレント・トレーニング実践ガイドブック』令和元年度障害者総合福祉推進事業(作成:一般社団法人 日本発達障害ネットワーク JDDnet 事業委員会/協力:日本ペアレント・トレーニング研究会), 発行日 2020年3月31日 — 3-1「ペアレント・トレーニングは1960年代から米国で発展してきました」「わが国においても、1990年代から肥前式、精研式、奈良式、鳥取大学式…が発展してきました」(p.9)/表3 (p.23)/まめの木クリニックの実施例 (p.32-33)/ペアプロの説明 (p.6)/事業委員 (p.44) PDF
  2. [2] まめの木クリニック|発達臨床研究所(公式)「まめの木式ペアレント・トレーニングプログラムとは」(全10回の各回テーマ) https://mamenoki-clinic.com/training/
  3. [3] 『ペアレント・トレーニング 支援者用マニュアル』令和2年度障害者総合福祉推進事業(一般社団法人 日本発達障害ネットワーク)— 第2回「子どもの行動観察と3つのタイプ分け」/「増やしたい行動、減らしたい行動、許しがたい行動」 PDF
  4. [4] 日本ペアレント・トレーニング研究会「理事・役員紹介」(岩坂英巳氏・井上雅彦氏の経歴) https://parent-training.jp/profile.html
  5. [5] 児童福祉法(昭和22年法律第164号)第6条の3第21項 e-Gov 法令検索
  6. [6] こども家庭庁「親子関係形成支援事業実施要綱」3 事業の内容 こども家庭庁 家庭支援事業について
  7. [7] こども家庭庁設置法(令和4年法律第75号)附則第1項 e-Gov 法令検索
  8. [8] 国立精神・神経医療研究センター「第1回 医療機関における注意欠如・多動症(ADHD)児の親へのペアレント・トレーニング実施者養成研修」(令和4年7月5日) https://www.ncnp.go.jp/info/2022/1_ParentTraining.html
  9. [9] 同「第2回」(令和5年7月4日) https://www.ncnp.go.jp/info/2023/2_adhd.html
  10. [11] 井上研究室(鳥取大学大学院医学系研究科 臨床心理学講座)「Web-Application」 https://www.masahiko-inoue.com/web-application
  11. [12] 免田賢・伊藤啓介・大隈紘子ほか(1995)「精神遅滞児の親訓練プログラムの開発とその効果に関する研究」『行動療法研究』21(1), 25-38頁 CiNii Research
  12. [13] 大西貴子・武藤葉子・岩坂英巳(2015)「ティーチャー・トレーニング・プログラムによる保育者支援に関する研究 第一報〜評価尺度の分析を中心に〜」奈良教育大学『次世代教員養成センター研究紀要』第1号, 83-90頁 CiNii Research
  13. [14] Cynthia Whitham, Win the whining war & other skirmishes: a family peace plan, Los Angeles: Perspective Publishing, 1991(ISBN 0-9622036-3-7)。書誌は Open Library / Internet Archive で確認。本文は閲覧制限つきで読めていません
  14. [10] 独立行政法人国立病院機構 肥前精神医療センター(公式)「発達障害児を育てる人のための親訓練プログラム(お母さんの学習室)」および募集パンフレット(H27.2.9 改訂) https://hizen.hosp.go.jp/program/program-5560/

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