
「ペアレント・メンター」という言葉を聞いたことがありますか? メンター(Mentor)とは「信頼できる相談相手」という意味です。ペアレント・メンターは、発達障害のある子どもを育てた経験を持つ親が、同じ立場の親に対して相談支援を行う制度です。
診断を受けたばかりで不安を抱える保護者、日々の子育てに悩む保護者に対し、専門家とは異なる「先輩ママ・先輩パパ」としての視点で寄り添います。本記事では、ペアレント・メンターの仕組み、ペアトレとの違い、全国の実施状況を詳しく解説します。
ペアレント・メンターとペアトレの違い
ペアレント・メンターとペアレント・トレーニング(ペアトレ)は、どちらも保護者を支援する制度ですが、その性質は大きく異なります。
| 項目 | ペアレント・トレーニング | ペアレント・メンター |
|---|---|---|
| 本質 | 教育プログラム | ピアサポート制度 |
| 提供者 | 専門家(心理士・保健師など) | 経験のある親(養成研修修了者) |
| 形式 | 連続講座(5〜10回) | グループ相談・個別相談・茶話会 |
| 目的 | 養育スキルの習得 | 心理的サポート・情報提供 |
| 関係性 | 専門家と学習者 | 先輩親と後輩親(斜めの関係) |
ペアトレが「子どもへの関わり方を学ぶ」ことに重点を置くのに対し、ペアレント・メンターは「親自身の気持ちに寄り添い、情報を提供する」ことを大切にしています。どちらも大切な支援であり、組み合わせることでより効果的です。
ペアレント・メンターの主な活動内容
ペアレント・メンターは、地域の発達障害者支援センターなどと連携しながら、さまざまな形で親を支援しています。
- グループ相談(茶話会形式):5〜10人程度の少人数で、悩みや経験を共有する場。メンターがファシリテーターを務めます
- 個別相談:2人のメンターが1対1で相談に応じます。診断直後の不安や、就学・進学の悩みなどに寄り添います
- 派遣講演:保育所や学校の研修会で、親の立場から体験を伝えます
- テーマ別講座の企画:「小学校入学準備」「思春期の対応」など、テーマを絞った情報提供を行います
メンターになるには? — 養成研修の仕組み
ペアレント・メンターになるには、以下の条件を満たす必要があります。
- 発達障害のある子どもを育てた経験がある保護者であること
- 各自治体が実施する養成研修を受講し修了すること
養成研修は以下のような内容で構成されています。
基礎研修の内容
- 発達障害の基礎知識(医療・教育・福祉)
- リソースブック(地域資源マップ)の作り方
- 相談の基礎技術
- 傾聴・相談ロールプレイ
応用研修の内容
- 地域支援システムの理解とメンターの役割
- 電話相談の特性と進め方
- グループ相談(インシデント・プロセス法)の進行技術
- サポートブックの作成方法
全国の実施状況
厚生労働省の支援のもと、ペアレント・メンター事業は全国に広がっています。
- 都道府県の83%(39箇所)でメンター養成事業を実施
- 政令指定都市の80%(16箇所)でも実施
- 5〜6割の自治体でメンターの登録制度あり
- 6〜7割の自治体で養成研修修了者への継続研修を実施
活動が確認されている主な地域
- 北海道:北海道ペアレントメンター養成研修
- 宮城県:県発達障害ペアレント・メンター事業
- 埼玉県:埼玉県自閉症協会と県発達障害総合支援センターで実施
- 東京都:東京都ペアレント・メンター事務局(こどもTOSCA内)
- 千葉県:千葉県発達障害者支援センター(CAS)で実施
- 静岡市:きらり(静岡市発達障害支援センター)で実施
- 鳥取県:ペアレントメンター鳥取
- 長崎県:ペアレントメンターながさき
- 香川県:NPO法人ペアレントメンターかがわ
ペアレント・メンターの歴史
日本におけるペアレント・メンター制度の歩みを振り返ります。
- 2005年:一般社団法人日本自閉症協会がペアレントメンター養成講座を開始
- 2010年(平成22年):厚生労働省がメンター養成を行う自治体への支援を開始
- 2013年(平成25年):コーディネーター配置に国からの助成が開始
- 2018年(平成30年):助成対象が市町村にも拡大し、より身近な場での家族支援が可能に
発達障害者支援センターとの関係
ペアレント・メンターの活動は、発達障害者支援センターと密接に連携しています。多くの場合、支援センターがメンター事業の事務局を担い、相談者とメンターをつなぐコーディネーター機能を果たしています。
たとえば東京都では、「こどもTOSCA」(東京都発達障害者支援センター)にペアレント・メンター事務局が設置されています。
ペアレント・メンターを利用するには?
お住まいの地域の発達障害者支援センターに問い合わせてみましょう。利用は無料です。個人からの直接申込みは受け付けていない場合が多いため、まずは支援センターや関係機関を通じてご相談ください。
全国の支援センター一覧は発達障害者支援センター活用ガイドをご覧ください。
おすすめの書籍
ペアレント・メンターについてさらに学びたい方におすすめの書籍です。
- 井上雅彦・吉川徹・日詰正文・加藤香 著「ペアレント・メンター入門講座 — 発達障害の子どもをもつ親が行なう親支援」(学苑社、2011年)
- 「ペアレント・メンター活動ハンドブック」(学苑社)
ペアレント・メンターを利用した方の体験談
実際にメンターに相談した保護者の声を紹介します。
【Gさん・4歳児の母/診断直後に利用】
「息子が自閉スペクトラム症と診断されたとき、頭が真っ白になりました。医師からいろいろ説明を受けましたが、何も頭に入ってきませんでした。支援センターに紹介されてメンターさんに会ったとき、開口一番『私も同じ経験をしました。大丈夫ですよ』と言われて、初めて涙が出ました。その後、『今すぐ必要なこと』と『後回しにしていいこと』を整理してもらえて、少し落ち着けました。」
【Hさん・小学3年生の母/就学相談で利用】
「通常学級か支援学級か、悩んで眠れない日が続いていました。メンターさんに相談したら、『うちの子は両方経験しましたよ』と、通常学級と支援学級それぞれのメリット・デメリットを実体験に基づいて教えてくださいました。専門家のアドバイスも大切ですが、実際に経験した親の言葉には説得力がありました。」
【Iさん・中学1年生の父/思春期の対応で利用】
「ADHDの息子が中学に入って不登校気味になり、妻も私も疲れ切っていました。メンターさんのグループ相談会に参加したら、思春期を乗り越えた先輩パパが『中学3年間はトンネルだったけど、高校で光が見えた』と話してくれました。同じ父親の立場からの言葉に、とても勇気づけられました。」
ペアレント・メンターが支援するライフステージ別の悩み
子どもの年齢によって保護者の悩みは変化します。メンターは各ステージの悩みに対応できます。
乳幼児期(0〜5歳)
- 「発達が遅いかも」という漠然とした不安
- 診断を受けたばかりの衝撃・混乱
- 療育施設の選び方
- 周囲(祖父母・ママ友)への伝え方
- イヤイヤ期と発達特性の区別がつかない不安
学童期(6〜12歳)
- 就学先の選択(通常学級・通級・支援学級・支援学校)
- 学校の先生との連携方法
- 友人関係のトラブル
- 宿題・学習面の困りごと
- 放課後等デイサービスの活用
思春期〜青年期(13歳〜)
- 不登校・ひきこもり
- 進学・進路選択
- 二次障害(うつ・不安・対人恐怖など)
- 就労に向けた準備
- 成人後の支援制度への移行
ペアレント・メンター活動の意義と課題
メンター活動は保護者支援として大きな意義がある一方で、いくつかの課題も抱えています。
意義
- 共感に基づく安心感:「この人は分かってくれる」という安心感は、専門家では提供しにくいものです
- 生きた情報の提供:地域の学校情報、医療機関の評判、サービスの使い勝手など、公式情報にはない「生きた情報」を共有できます
- ロールモデルとしての存在:「数年前は自分も同じだったけれど、今はこんなに落ち着いている」というメンターの姿そのものが、相談者にとっての希望になります
- 早期介入への橋渡し:診断直後の保護者を、ペアトレや療育など適切な支援につなぐ役割を果たします
課題
- メンター自身のケア:相談を受ける中で、メンター自身が過去のつらい体験を思い出して疲弊することがあります。定期的なスーパーバイズ(専門家による支援)が不可欠です
- 専門的支援との境界:メンターは「傾聴と情報提供」が役割であり、「助言や指導」は専門家の領域です。この境界が曖昧にならないよう注意が必要です
- 地域格差:メンター事業を実施していない自治体もあり、全国一律ではありません
- 男性メンターの不足:メンターの多くが母親であり、父親のメンターが少ないのが現状です。父親同士のピアサポートのニーズは高まっています
ペアレント・メンターと他の支援制度の連携
ペアレント・メンターは、他の支援制度と連携することでより大きな効果を発揮します。保護者を中心とした支援ネットワークの中で、メンターがどのような位置づけにあるかを理解しておくと、適切なタイミングで適切な支援を利用できるようになります。
ペアレント・プログラムとの連携
ペアレント・プログラム(ペアプロ)は「行動で考える」視点を学ぶ入門プログラムです。メンターに相談する中で「子どもの行動を客観的に見る力をつけたい」と感じた保護者に、ペアプロの受講を勧めるケースがあります。ペアプロで基礎的な視点を身につけた後、より具体的なスキルを学ぶためにペアトレに進むという段階的な流れが理想的です。
ペアレント・トレーニングとの連携
ペアトレの受講前や受講中にメンターのサポートを受けると、「気持ちの安定」と「スキルの習得」を両立できます。ペアトレで学んだ褒め方や環境調整のスキルを家庭で実践する中で壁にぶつかったとき、メンターに相談すると「うちもそうだったよ、こうしたら少し楽になった」といった実践的なアドバイスが得られます。ペアトレの費用や探し方についてもメンターに質問できます。
発達障害者支援センターとの連携
発達障害者支援センターは、メンター事業のコーディネートだけでなく、専門的な相談支援も行っています。メンターへの相談では対応しきれない深刻なケース(二次障害、虐待リスクなど)は、センターの専門スタッフに引き継がれます。メンターとセンターの連携がうまく機能することで、保護者は「軽い悩みはメンターに、専門的な問題はセンターに」と使い分けることができます。
メンターを利用する際の心構え
ペアレント・メンターをより有効に活用するために、いくつかの心構えを持っておくと良いでしょう。
- 「答え」を求めすぎない:メンターは専門家ではありません。「こうすべきです」という指導ではなく、「うちはこうしました」という体験の共有が中心です。最終的な判断は自分自身で行う必要があります
- 一人のメンターの意見がすべてではない:メンターによって経験も価値観も異なります。一人のメンターの意見を絶対視せず、複数の視点を参考にしましょう
- メンターも完璧ではない:メンターも子育てに悩んできた一人の親です。完璧な回答を期待するのではなく、「一緒に考えてくれる仲間」として捉えましょう
- 専門的な問題は専門家へ:医療的な判断、法的な問題、深刻な家庭内の問題などは、メンターではなく専門家に相談しましょう
よくある質問(Q&A)
Q1. ペアレント・メンターへの相談は有料ですか?
A. いいえ、基本的に無料です。ペアレント・メンター事業は厚労省の補助事業として運営されているため、相談者に費用がかかることはありません。
Q2. メンターに相談したいとき、どこに連絡すればいいですか?
A. お住まいの地域の発達障害者支援センターに問い合わせてください。センターがメンター事業の窓口になっていることが多いです。直接メンターに連絡するのではなく、コーディネーターを通じて適切なメンターを紹介してもらう仕組みです。
Q3. ペアトレとメンター、どちらを先に利用すべきですか?
A. 状況によります。診断直後で気持ちの整理がつかない段階ではメンターへの相談が先のほうが安心できるでしょう。ある程度気持ちが落ち着いて「具体的に何をすればよいか知りたい」段階になったら、ペアトレの受講をおすすめします。両方を並行して利用することもできます。
Q4. 自分もメンターになりたいのですが、どうすればいいですか?
A. 発達障害のある子どもを育てた経験がある方で、他の保護者を支えたいという思いがあれば、お住まいの地域の発達障害者支援センターに「メンターになりたい」と連絡してみてください。養成研修の案内をもらえます。研修は基礎と応用の2段階で、傾聴技術やグループ進行スキルなどを実践的に学びます。
まとめ
ペアレント・メンターは、専門家による支援(ペアトレ)とは異なる「親だからこそできる支援」です。同じ経験をしてきた先輩親の存在は、孤立しがちな子育てにおいて大きな支えとなります。
ペアトレで養育スキルを学びつつ、ペアレント・メンターに心の支えを求める——この両輪が揃うことで、保護者の子育てはより豊かになるのではないでしょうか。
関連記事:ペアレント・トレーニングとは | ペアレント・プログラムとは? | 支援センター活用ガイド | 育児ノイローゼとペアトレ | 全国のイベント一覧


コメント