
日本で実施されているペアレント・トレーニング(ペアトレ)には、開発の経緯が異なるいくつかのプログラムがあります。どれも「子どもの行動を理解し、適切な対応を学ぶ」という基本理念は共通していますが、成り立ちや対象、進め方には違いがあります。
この記事では、厚生労働省のペアレント・トレーニング実践ガイドブックの整理にしたがって、日本の主要なプログラムを3つの系統に分けて比較します。
【訂正とお詫び】2026年7月、本記事の記述に誤りがあるとのご指摘を、まめの木クリニック発達臨床研究所の専門家の方からいただきました。以前の版では「まめの木式」を精研式とは別の全6回のプログラムとして独立の章で紹介し、まめの木クリニックの所在地を「埼玉県さいたま市」と記載していましたが、いずれも誤りです。正しくは、まめの木クリニックで実施されているのは精研式そのもの(全10回)であり、所在地は東京都江戸川区です。ご指摘を受け、2026年9月2日に記事の構成を含めて全面的に改めました。誤った情報を掲載していたことをお詫びいたします。
3系統の一覧比較表
厚労省ガイドブックの「表3 3つのペアレント・トレーニングのプログラムの特徴」にもとづく整理です。
| 系統 | 主な開発元・実施元 | 回数 | 主な対象 | 理論基盤 |
|---|---|---|---|---|
| 精研・まめの木・奈良式 | 国立精神・神経医療研究センター(精研)/まめの木クリニック(東京都江戸川区)/奈良教育大学 | 10回程度 | ADHD中心 → 発達障害全般 | UCLAのプログラムを日本向けに改編 |
| 肥前式 | 国立肥前療養所(現・肥前精神医療センター、佐賀県) | 10回程度(実施元の現行は全12回) | 知的障害を伴うASD中心 → ADHDにも | 行動療法 |
| 鳥取大学式 | 鳥取大学(井上雅彦先生) | 6〜8回程度(実施元は本体8回+相談会2回) | 知的障害を伴うASD中心 → 発達障害全般 | 応用行動分析(ABA) |
※「精研式」「まめの木式」「奈良方式」は別々のプログラムとして紹介されることがありますが、ガイドブックではひとつの系統として整理されています。とくに精研式とまめの木式は同じプログラムであり、まめの木式は精研式の短縮版ではありません。
1. 精研・まめの木・奈良式ペアレント・トレーニング
成り立ち:米国のUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で開発されたADHDのある子どもの保護者向けプログラムを基礎に、1990年代後半、上林靖子先生らが日本の文化に合わせて改編したものです。国立精神・神経医療研究センターの前身である国立精神・神経センター精神保健研究所(=「精研」)で開発されたことから、精研式と呼ばれます。当初はADHDにともなう親子関係の悪化の改善と予防を目的としていましたが、現在はASDの問題にも適用できるようテーマと対応方法が工夫され、発達障害全般のプログラムに発展しています。
国内で広く実施されているプログラムです。(「日本で最も普及している」と断定できる記述は厚労省ガイドブックにはありません。表3 は3つのプログラムを並列に紹介しています。)
全10回のセッション構成
| 回 | テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| 第1回 | オリエンテーション | プログラムの目的と進め方の説明、自己紹介 |
| 第2回 | 行動の観察と記録 | 子どもの行動を客観的に観察・記録する方法を学ぶ |
| 第3回 | 行動の3分類 | 「好ましい行動」「好ましくない行動」「許しがたい行動」に分ける |
| 第4回 | 褒め方を学ぶ | 好ましい行動を増やすための効果的な褒め方(25%ルール) |
| 第5回 | 上手な無視の仕方 | 好ましくない行動への「計画的な無視」の技術 |
| 第6回 | 指示の出し方(CCQ) | 穏やかに・近づいて・静かに指示を出す方法 |
| 第7回 | 制限(リミットセッティング) | 許しがたい行動への対応と制限の設定 |
| 第8回 | トークンエコノミー | ご褒美シールなどを使った行動の強化システム |
| 第9回 | 学校との連携 | 先生との協力体制の築き方 |
| 第10回 | まとめと振り返り | 学んだスキルの総復習と今後の実践計画 |
※この構成は代表的な例です。回の順序や扱うテーマは、実施機関や版によって一部異なります。一次資料で全10回の一覧を公開しているのはまめの木クリニック公式(厚労省ガイドブック p.33 の同院の表とも一致)で、そこでは第2回が「好ましい行動を増やす」、第3・4回が「好ましくない行動を減らす①②」、第7回が「よりよい行動チャート」、第8回が「制限を設ける(警告とペナルティ)」です。第9回が「学校との連携」である点は上の表と一致します。
特徴:各回は「宿題の報告と振り返り→本日のテーマ→ロールプレイ→話し合い」という流れで進みます(まめの木クリニック公式)。厚労省ガイドブックが記録する同院の実施では1回90分・概ね隔週・固定メンバーで1グループ8人までです。次回にホームワークの結果をグループで共有し、参加者同士のピア・サポートを大切にしながら進めます。
10回それぞれで何をするのかは、精研式ペアレントトレーニングの詳細解説にセッションごとにまとめています。
まめの木クリニックでの実施(「まめの木式」と呼ばれるもの)
まめの木クリニック・発達臨床研究所は、東京都江戸川区にある民間の児童精神科クリニックです。精研式を開発した上林靖子先生(元・国立精神保健研究所 児童思春期精神保健部部長)が開いたクリニックで、当時のスタッフがプログラムを継続し、ファシリテーター(リーダー)養成研修も行っています。
ここで実施されているのは精研式そのものです。厚労省ガイドブックの医療機関例にも「まめの木クリニックは東京都江戸川区所在の、民間の児童精神科クリニックである」「親のグループによるプログラムとして、精研式のペアレント・トレーニング……を実施している」「精研式プログラムを全10回1クールで行っている」と明記されています(p.32)。
そもそも同ガイドブックは「その中から…3つのプログラムを紹介します」(p.22)としたうえで、表3 の表題を「3つのペアレント・トレーニングのプログラムの特徴」、その1行目を「精研・まめの木・奈良式ペアレント・トレーニング」としています(p.23)。まめの木は「3つ」のうちの1つではなく、1つ目のプログラムの3つの呼び名のひとつです。同院の実施例として載っている回次表(p.33)も、見出しは「〈プログラムの内容〉」で、同院が実施している精研式プログラムの内容を指します。当サイトが奈良方式の第9回として書いていた「学校・園との連携」の出どころも、この表でした。
まめの木クリニックは、自院のプログラムを「まめの木式ペアレント・トレーニングプログラム」と案内しています。ただしこれは精研式とは別のプログラムという意味ではなく、精研式を短縮したものでもありません。同院の案内には全10回のセッション構成が掲載されており、プログラムの出どころも「カリフォルニア大学ロサンゼルス校でシンシア・ウィッタム氏が長年にわたって行っているプログラムを日本の現状にあわせて調整したもの」と説明されています。これは精研式の源流とまったく同じで、そのウィッタム氏の著書『読んで学べるペアレント・トレーニング』を日本語に訳したのが上林靖子先生ご本人です。全6回・全8回のプログラムとして紹介されることがあるのは誤りで、本来は全10回のプログラムです。なお、ペアトレ研究会大会において、厚労省ガイドブックの「コアエレメント」に合わせて6回の形で紹介された経緯はありますが、それがプログラムの標準的な回数を示すものではありません。
奈良方式
実施元:奈良教育大学(岩坂英巳先生)
精研式と同じくUCLAのプログラムを基礎としており、岩坂先生らが奈良で実践を重ねてきた流れです。当初はADHDの子どもの保護者が対象でしたが、現在では発達障害の診断の有無にかかわらず「子育てに困っている保護者」全般に対象が広がっています。
特徴:全10回で構成は精研式と近いですが、「子どもの良いところ探し」から始まる点が特徴的です。初回から保護者が子どもの肯定的な側面に目を向けることで、プログラム全体を通じて「褒めて育てる」姿勢が自然と身につきます。また、教育現場との連携を重視しており、学校の先生にも協力を求める「ティーチャー・トレーニング」の開発にもつながりました。
学校連携セッションで具体的に何をするのかは奈良方式の解説にまとめています。
回数を短縮して実施する場合について
自治体などの事情から、回数を減らした形で実施されることがあります。ただし短縮版が標準というわけではなく、実施者・研修を行う立場からは推奨されていません。回数を短縮して実施する際の工夫については、中田洋二郎先生のご著書に詳しく記されています。
2. 肥前式ペアレント・トレーニング
開発元:国立肥前療養所(現・独立行政法人肥前精神医療センター、佐賀県)
成り立ち:1990年代前半に始まったプログラムです。(「日本で最も早く導入した」と断定できる記述は厚労省ガイドブックにはありません。同書 3-1 は「1990年代から肥前式、精研式、奈良式、鳥取大学式…が発展してきました」と4つを並べています。)行動療法の実践に基づいて、知的障害を伴うASD(自閉スペクトラム症)のある子どもの保護者を「共同治療者(コ・セラピスト)」として育てるプログラムから出発し、現在はADHDにも適用できるプログラムに発展しています。
実施元が公開している全12回のセッション構成
| 回 | テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| 第1回 | オリエンテーション/自己紹介 | 講義:概論 |
| 第2回 | 事例の紹介 | 講義+グループミーティング |
| 第3回 | 行動の観察と記録の仕方 | 講義+グループミーティング |
| 第4回 | 望ましい行動を増やすには | 講義+グループミーティング |
| 第5回 | ポイントシステム | 講義+グループミーティング |
| 第6回 | 環境の整え方 | 講義+グループミーティング |
| 第7回 | 困った行動を減らすには | 講義+グループミーティング |
| 第8回 | 外出先での工夫・対処法 | 講義+グループミーティング |
| 第9〜11回 | グループミーティング/全体ミーティング | 後半は講義がなくミーティングのみ |
| 第12回 | 感想/修了式 | — |
特徴:セッションの前半は全体での行動理論の講義、後半は3名程度の小グループで、講義の内容を家庭での実践にどう活かすかを話し合います。ホームワークは1つないし2つの具体的行動についての家庭記録です[厚労省ガイドブック表3]。実施元は目的を①「生活技術の効果的な指導方法」を学ぶ ②「困った行動への効果的な対応」を学ぶの2つとしており、「スタッフから直接お子さんへ指導は行いません」と明記しています。保護者を共同治療者として育てるという出発点が、いまの運営にも残っています。1回は10:00〜12:30です。
各回のテーマ・時間・申し込み方法・出典は肥前式ペアレントトレーニングの詳細にまとめています。(当サイトが以前「環境調整に2回を充てる」と書いていたのは誤りです。実施元の公式パンフレットで「環境の整え方」は第6回の1回だけでした。)
3. 鳥取大学式ペアレント・トレーニング
開発元:鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学講座(井上雅彦先生)
成り立ち:応用行動分析(ABA)に基づいて、知的障害を伴うASDのある子どものコミュニケーションスキルや適応的な行動の獲得を親が学習するプログラムの開発から始まり、現在は発達障害全般を対象とするプログラムに発展しました。井上先生は日本ペアレント・トレーニング研究会の会長で、厚労省ガイドブックを作った事業の事務局も同氏の研究室が務めました。厚労省ガイドブックが3方式のうち鳥取大学式にだけ書いているのが、補助治療者としてのペアレント・メンターの参加を推奨している点です。
実施元が公開しているセッション構成(本体8回+相談会2回)
| 回 | テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| 第1回 | オリエンテーション/ほめ上手になろう!① | 自己紹介・リラクゼーション |
| 第2回 | ほめ上手になろう!②③ | 自信がつく、伸びるほめ方のコツ |
| 第3回 | 観察上手になろう! | どうしてこんなことをするのかな?を読み解く |
| 第4回 | 整え上手になろう! | 子どもにとってわかりやすい教え方のコツ① |
| 第5回 | 伝え上手になろう! | 子どもにとってわかりやすい教え方のコツ② |
| 第6〜7回 | 教え上手になろう!①② | 達成感のある教え方のコツ |
| 第8回 | まとめ | ここまでが本体8回 |
| 第9〜10回 | フォローアップ(相談会)①② | グループワーク・近況報告 |
特徴:他の系統との最大の違いは、視覚支援と環境の構造化に力を入れている点です。知的障害やASDのある子どもは視覚的な情報のほうが理解しやすいため、絵カードやスケジュール表、手順書などの具体的なツールの作り方・使い方を学びます。グループ・ワークでは家庭でよくある例をワークシートに記入したり話し合いを行い、補助治療者としてのペアレント・メンターの参加も推奨されています。
講義の柱はほめ上手・観察上手・整え上手・伝え上手・教え上手の5つで、参考図書『子育てが楽しくなる5つの魔法』(アスペ・エルデの会)の5項目と対応します。「5つ」はテーマの数であって回数ではありません。各回テーマ・対象・受けられる場所・出典は鳥取大学式ペアレントトレーニングの詳細にまとめています。(当サイトが以前「基礎コースと応用コースの2コース制」「保護者のストレスケアの回がある」と書いていたのは誤りです。一次資料に根拠が見つかりませんでした。)
各系統の共通点 — 6つのコアエレメント
厚生労働省のペアレント・トレーニング実践ガイドブックでは、系統を超えた共通の核(コアエレメント)として以下の6つが整理されています。
- 子どもの良いところを探し、褒める
- 行動の3分類 — 「好ましい行動」「好ましくない行動」「許しがたい行動」に分ける
- ABC分析 — きっかけ(Antecedent)→行動(Behavior)→結果(Consequence)で行動を理解する
- 環境調整 — 子どもが適切に行動しやすい環境を整える
- 達成しやすい指示 — 具体的・肯定的・短い指示を出す
- 不適切な行動への対応 — 好ましくない行動への計画的な対処法を学ぶ
どの系統を選んでも、この6つの核は必ず含まれています。
お子さんの状況に合わせた選び方
| お子さんの状況 | 相性のよい系統 | 理由 |
|---|---|---|
| ADHDの診断がある | 精研・まめの木・奈良式 | ADHD向けに開発された経緯がある |
| 知的障害がある | 肥前式・鳥取大学式 | 生活スキルの教え方や視覚支援に特化 |
| ASD(自閉スペクトラム症) | 鳥取大学式・肥前式 | どちらも知的障害をともなうASDを起点に作られた系統 |
| 診断はないが子育てに困っている | 精研・まめの木・奈良式 | 対象が広く、診断の有無を問わず実施されている |
ただし、お住まいの地域で受けられるプログラムは限られていることが多いため、まずは地域で開催されているプログラムに参加してみることをお勧めします。どの系統も「子どもの行動を理解し、褒めて育てる」という基本は共通しています。
エビデンス(科学的根拠)
2025年9月に日本児童青年精神医学会が公開した「注意欠如多動症児に対するペアレント・トレーニング ガイドライン」では、国際的な研究論文を系統的に検証した結果、「幼児・児童・思春期(18歳未満)のADHD児に対しては、ペアレント・トレーニングを行うことを提案する」という推奨がなされました。
また、国内50本の研究論文を対象とした系統的レビュー(J-STAGE掲載)でも、「多くの研究によりペアレント・トレーニングを受けた親子の多様なアウトカムの改善が示された」と報告されています。具体的には、子どもの問題行動の減少と保護者の育児ストレスの軽減の両方が確認されています。
まとめ
日本のペアレント・トレーニングは1990年代に始まり、30年以上の歴史があります。厚労省ガイドブックは、これを精研・まめの木・奈良式/肥前式/鳥取大学式の3系統として整理しています。どの系統も行動理論をベースに、保護者が子どもとの関わり方を学ぶプログラムです。
地域で受けられるプログラムの情報は、お住まいの自治体の発達障害者支援センターや子育て支援課にお問い合わせください。当サイトのイベント一覧でも、全国のペアトレ開催情報をまとめています。
出典
- 厚生労働省「ペアレント・トレーニング実践ガイドブック」(令和元年度障害者総合福祉推進事業/作成:一般社団法人日本発達障害ネットワーク JDDnet 事業委員会/協力:日本ペアレント・トレーニング研究会/2020年3月31日発行)— 「表3 3つのペアレント・トレーニングのプログラムの特徴」(p.23)、「医療機関例 ④まめの木クリニック」(p.32〜33)
- まめの木クリニック 発達臨床研究所(東京都江戸川区東小岩/理事長・上林靖子)— ペアレント・トレーニング(全10回のセッション構成)、研修案内(リーダー養成基礎研修)
- シンシア・ウイッタム著/上林靖子・中田洋二郎・井澗知美他訳(2002)『読んで学べるペアレント・トレーニング』明石書店
- 上林靖子・北道子・河内美恵他(2009)『発達障害のペアレント・トレーニング実践マニュアル』中央法規
- 岩坂英巳他(2012)『困っている子をほめて育てるペアレント・トレーニングガイドブック — 活用のポイントと実践例』じほう
- 大隈紘子・伊藤啓介他(2005)『AD/HDをもつ子どものお母さんの学習室』二瓶社
- 井上雅彦他(2012)『子育てが楽しくなる5つの魔法』アスペ・エルデの会
本記事の内容について、まめの木クリニック発達臨床研究所の専門家の方よりご指摘とご教示をいただきました。記して御礼申し上げます。記載内容の責任はすべて当サイトにあります。
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