肥前式ペアレントトレーニングは、佐賀県の国立肥前療養所(現・独立行政法人国立病院機構 肥前精神医療センター)で開発されたプログラムです。(「日本で最も歴史が古い」と断定できる記述は、厚労省ガイドブックにも実施元の公開資料にもありません。同書 3-1 は「わが国においても、1990年代から肥前式、精研式、奈良式、鳥取大学式…が発展してきました」と4つを並べています。)厚生労働省の『ペアレント・トレーニング実践ガイドブック』は「肥前式ペアレント・トレーニング」として、国内3つのプログラムの1つに挙げています[1]。原著論文での呼び名は HPST(Hizen Parenting Skills Training)[2]、実施元の現在の呼び名は「発達障害児を育てる人のための親訓練プログラム(お母さんの学習室)」です[3]。
このページは一次資料(厚労省ガイドブック本体、原著論文の抄録、実施元・肥前精神医療センターの公式サイトと募集パンフレット)に当たって書いています。裏が取れなかった項目は埋めずに末尾に残しました。
🔴 まず回数と時間について — 当サイトの記述を検め直しました
当サイトはこれまで肥前式を「全10回・各回約2.5時間・環境調整に2回(第8・9回)」と書いていました。一次資料に当て直した結果はこうです。
| これまでの記述 | 一次資料 | 判定 |
|---|---|---|
| 各回約2.5時間 | 実施元公式:「時間:10:00~12:30(延長することもあります)」[3] | ✅ 裏が取れた |
| 全10回 | 原著(1995):「本プログラムは10セッションからなっている」[2]/厚労省表3:「回数は10回程度」[1]/実施元の現行パンフレット:全12回[3] | ⚠ 原型は10、いま実施されているのは12 |
| 環境調整に2回(第8・9回) | 実施元パンフレットで「講義:環境の整え方」は第6回の1回だけ。第8回は「講義:外出先での工夫・対処法」[3] | ❌ 誤り。撤回します |
回数が資料によって違うのは矛盾ではなく、原著の10セッションを土台に、実施元がいまの形(12回)で回しているということです。厚労省が「10回程度」と幅を持たせているのも、そこに理由があると読めます。以下、それぞれ出典を分けて書きます。
① 特徴
厚労省ガイドブックの表3 は、肥前式についてこう書いています[1]。
- 成り立ち:「国立肥前療養所(現肥前精神医療センター)の行動療法の実践に基づいて、知的障害をともなうASDの子どもの保護者を共同治療者として育てるプログラムから出発し、現在はADHDに適用できるプログラムに発展している」
- グループ活動:「セッションの前半は全体での行動理論の講義、後半は3名程度の小グループで前半の講義の内容を家庭での実践にどのように活かすかを話し合う。回数は10回程度。ホームワークは、1つないし2つの具体的行動についての家庭記録である」
- ねらい:「前半の講義を通して、保護者が行動理論の基本を理解し、新しい問題に対して対応できるようにする。後半では、個別の問題を解決できるように、具体的な対応法の話し合いを進め、子どもの問題行動の改善や適応的な行動の定着を重視している」
3系統を読み比べると、肥前式の輪郭は「保護者に行動療法そのものを教える」ところにあります。精研式の系統が「ほめる=肯定的な注目」を軸に据え、鳥取大学式が「代わりにしてほしい行動を教える」順序を取るのに対し、肥前式は毎回の前半をまるごと行動理論の講義に充て、後半の小グループで自分の子どもに当てはめる、という組み立てです。ガイドブックが「新しい問題に対して対応できるようにする」と書いているのは、その場の対処法ではなく考え方を持ち帰ってもらう設計だからです。
実施元の説明も同じ方向です。「この学習室では、どのようにしたらご家庭で生活技能を教えることができるか、どのようにしたら子どもの困った行動に対応できるか、行動療法という考え方に基づいた対応の仕方についてお母さんに学んでいただきます」[3]。
② 生まれた理由・経緯
出発点は知的障害をともなう子どもの家庭での育てにくさでした。原著論文(1995)の抄録は、プログラムの狙いと構成をこう書いています[2]。
われわれは行動療法に基づいた精神遅滞児の親のための親訓練プログラム(HPSTプログラム)を開発した。本プログラムは10セッションからなっている。プログラムは集団と個別形式からなり,内容は視聴覚教材を多用した講義の集団訓練と家庭での実践をもとにした個別訓練で構成されている。
言葉での指示が伝わりにくく、抽象的な言い方(「ちゃんとしなさい」)が届きにくい子どもに対しては、その場しのぎの言い換えでは足りません。だから保護者を「共同治療者(コ・セラピスト)」として育てる——支援者が子どもを直接指導するのではなく、家庭で毎日一緒にいる人が方法を持つ——という発想を取りました。実施元がいまも「この学習室では、スタッフから直接お子さんへ指導は行いません」と明記しているのは、この考え方が続いているためです[3]。
原著の効果研究は、精神遅滞児をもつ母親36名を対象に、参加前・参加後・終了2か月後・6か月後・1年後の各段階で測定したと報告しています[2]。(結果の詳細は原著をご覧ください。このページでは効果の言い切りはしません。)
③ 歴史
| 年 | できごと | 出典 |
|---|---|---|
| 1945 | 「国立肥前療養所」として開設 | [4] |
| 1995 | 免田賢・伊藤啓介・大隈紘子・中野俊明・陣内咲子・温泉美雪・福田恭介・山上敏子「精神遅滞児の親訓練プログラムの開発とその効果に関する研究」を『行動療法研究』21巻1号(pp.25-38)に発表。英題は “Development and Outcome of the Hizen Parenting Skills Training Program for Mothers of Children with Mental Retardation” | [2] |
| 1998 | 山上敏子ほか『お母さんの学習室 — 発達障害児を育てる人のための親訓練プログラム』(二瓶社)— 厚労省ガイドブックが挙げる「主な参考図書」 | [1] |
| 2005 | 大隈紘子・伊藤啓介ほか『AD/HDをもつ子どものお母さんの学習室』(二瓶社)— 同上。当初の知的障害からADHDへ広がったことが書名に表れている | [1] |
| 2015 | 実施元の募集パンフレットが「H27.2.9 改訂」版に。全12回のプログラム表が載る | [3] |
| 2020 | 厚労省『ペアレント・トレーニング実践ガイドブック』に「肥前式ペアレント・トレーニング」として掲載。同事業の委員に免田賢氏(佛教大学 教育学部)・伊藤啓介氏(広島国際大学 心理学部)が名を連ねる | [1] |
④ 実施主体・主催
独立行政法人国立病院機構 肥前精神医療センター(1945年に「国立肥前療養所」として開設)[4]。プログラムの窓口は同センターの情動行動障がいセンター 心理室です[3]。
- 所在地:〒842-0192 佐賀県神埼郡吉野ヶ里町三津160
- TEL:0952-52-3231(代表)/FAX:0952-51-1433(心理室「お母さんの学習室」担当)
- 会場:医師養成研修センター 2階
「お母さんの学習室」は子ども外来(児童思春期外来)の外来プログラムの一つとして運営されています。子ども外来は18歳未満が対象で、対象疾患は「自閉症、知的障害、広汎性発達障害 など」、対象年齢は「3歳から18歳まで」、原則予約制です[3]。
⑤ 発案者/開発者
原著論文(1995)の著者は、免田賢・伊藤啓介・大隈紘子・中野俊明・陣内咲子・温泉美雪・福田恭介・山上敏子の8氏です[2]。特定の1人の名前で語られるより、国立肥前療養所のチームの仕事として立ち上がったのがこの方式の特徴です。
2020年の厚労省ガイドブックには、このうち免田賢氏が佛教大学 教育学部、伊藤啓介氏が広島国際大学 心理学部の所属で事業委員として名を連ねています[1]。温泉美雪氏(東京家政大学人文学部心理カウンセリング学科 准教授)は日本ペアレント・トレーニング研究会の理事です[5]。
厚労省ガイドブックが挙げる肥前式の「主な参考図書」は次の2冊です[1]。
- 大隈紘子・伊藤啓介ほか(2005)『AD/HDをもつ子どものお母さんの学習室』二瓶社
- 山上敏子ほか(1998)『お母さんの学習室 — 発達障害児を育てる人のための親訓練プログラム』二瓶社
⑥ 回数と各回テーマ
実施元が公開している募集パンフレット(H27.2.9 改訂)から、そのまま写します[3]。「このプログラムは、後半を除いて『講義』と『ミーティング』の2部構成です」と書かれているとおり、第9回以降は講義がなくミーティングだけになります。
| 回 | 内容 |
|---|---|
| 1 | オリエンテーション/自己紹介 + 講義:概論 |
| 2 | 講義:事例の紹介 + グループミーティング |
| 3 | 講義:行動の観察と記録の仕方 + グループミーティング |
| 4 | 講義:望ましい行動を増やすには + グループミーティング |
| 5 | 講義:ポイントシステム + グループミーティング |
| 6 | 講義:環境の整え方 + グループミーティング |
| 7 | 講義:困った行動を減らすには + グループミーティング |
| 8 | 講義:外出先での工夫・対処法 + グループミーティング |
| 9 | グループミーティング + 全体ミーティング |
| 10 | グループミーティング + 全体ミーティング |
| 11 | グループミーティング + 全体ミーティング |
| 12 | 感想/修了式 |
「環境の整え方」は第6回の1回だけです。当サイトが以前「環境調整に2回(第8・9回)を充てる」と書いていたのは誤りでした。第8回は「外出先での工夫・対処法」、第9回以降はミーティングです。
ミーティングでは「目標行動を決め、お子さんに合った指導方法・対応をスタッフとお母さんで考案」し、それを家庭で実施して「毎日お子さんの様子を観察・記録」し、その記録をもとに再検討する、という往復を繰り返します[3]。目的として挙げられているのは①「生活技術の効果的な指導方法」を学ぶ ②「困った行動への効果的な対応」を学ぶの2つで、例示は「離席をせずにごはんを食べる」「体を自分で洗う」「宿題に30分で取りかかる」「8時までに朝の準備をする」といった具体的なものです[3]。
⑦ どこで受けられるか
肥前精神医療センターの外来プログラムとして実施されています。ここに載せるのは公開されている募集パンフレット(H27.2.9 改訂)と公式サイトの記載です(最新の日程は必ず公式でご確認ください)[3]。
- 名称:発達障害児を育てる人のための親訓練プログラム(お母さんの学習室)
- 期間:4月〜7月の約3か月間、毎週水曜日(都合により曜日が変わることもあります)/公式サイトには「毎週水曜日(年1回秋)10:00〜12:30 12クール」の回も案内されています
- 時間:10:00〜12:30(延長することもあります)
- 対象:ADHDや自閉スペクトラム症など発達障がいのある子どもをお持ちのお母さん。子どもの年齢は3才から10才を原則/毎週続けて参加できる方に限る
- 費用:毎回、診察費(保険適用)が必要
- 申し込み:参加申込用紙に記入のうえ主治医を通して申し込み。先着順に担当者から連絡(2月初旬〜中旬頃)
- その他:学習室開始前に事前の面接がある/スタッフから直接子どもへの指導は行わない
ここが他方式と実務上いちばん違うところですが、肥前式は「病院の外来プログラム」です。自治体の講座のように誰でも応募できる形ではなく、主治医を通した申し込みが入り口になります。子ども外来自体も「佐賀県内の他院(精神科、小児科等)や行政機関等からの紹介の患者様」が原則です[3]。
肥前式の指導者養成研修は、厚労省ガイドブックが挙げる3つのプログラムに共通して実施されています[1]。ただし各地の自治体は方式名を名乗らず地域の通称で開くことが多いので、チラシを見ただけでは方式はわかりません。お住まいの地域の発達障害者支援センターに問い合わせるのが確実です。
この記事で確認できなかったこと
- 「環境調整に2回(第8・9回)を充てる」:当サイトが以前そう書いていたのは誤りでした。実施元パンフレットでは「環境の整え方」は第6回の1回だけです。撤回します
- 原著の10セッションの各回テーマ:抄録に回次表はなく、本文は参照していません。本ページの全12回は実施元の現行パンフレット(H27.2.9 改訂)のものです
- 10セッション→12回に変わった時期と理由:どの資料にも記載がありません
- 「視覚的支援(スケジュール表・手順書)に力を入れている」:厚労省表3 の肥前式の欄にも実施元パンフレットにもこの記述はありません。当サイトの以前の記述はいったん取り下げます
- パンフレットの版:公式サイトに載っているのは「H27.2.9 改訂」版です。2015年以降の改訂版は公開されているものを確認できませんでした
⑧ 出典(一次資料)
いずれも2026年9月4日に本文を開いて確認しています。
[1] 厚生労働省『ペアレント・トレーニング実践ガイドブック』令和元年度障害者総合福祉推進事業(作成:一般社団法人 日本発達障害ネットワーク JDDnet 事業委員会/協力:日本ペアレント・トレーニング研究会), 2020年3月31日発行 — 表3「3つのペアレント・トレーニングのプログラムの特徴」(p.23)、事業委員 (p.44) https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000653549.pdf
[2] 免田賢・伊藤啓介・大隈紘子・中野俊明・陣内咲子・温泉美雪・福田恭介・山上敏子「精神遅滞児の親訓練プログラムの開発とその効果に関する研究」『行動療法研究』21巻1号, 25-38頁, 1995年3月31日(抄録を確認。本文は未参照) https://cir.nii.ac.jp/crid/1390845713075104000
[3] 独立行政法人国立病院機構 肥前精神医療センター(公式) — 子ども外来/外来プログラム「発達障害児を育てる人のための親訓練プログラム(お母さんの学習室)」/募集パンフレット「お母さんの学習室 H27.2.9 改訂版」(PDF) https://hizen.hosp.go.jp/program/program-5560//https://hizen.hosp.go.jp/patient/clinical/child-psychiatry/
[4] 独立行政法人国立病院機構 肥前精神医療センター(公式)— 病院案内・沿革 https://hizen.hosp.go.jp/
[5] 日本ペアレント・トレーニング研究会「理事・役員紹介」 https://parent-training.jp/profile.html
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