方式別解説

奈良方式ペアレントトレーニング(奈良式)とは — 特徴・経緯・回数・奈良で受けられる場所

奈良方式ペアレントトレーニング(奈良式)は、奈良で育ったペアレント・トレーニング(ペアトレ)の実施の形です。厚生労働省の『ペアレント・トレーニング実践ガイドブック』は、奈良式を単独の方式としてではなく 「精研・まめの木・奈良式ペアレント・トレーニング」という1つのまとまりとして紹介しています[1]精研式と同じ系統のもの、と考えるのが出典に忠実な理解です。

このページは、厚労省のガイドブック本体・実施元の公式サイト・研究会の公式プロフィール・出版社の書誌といった一次資料に当たって書いています。裏が取れなかった項目は埋めずに末尾に残しました。

① 特徴

厚労省ガイドブックは、指導者養成研修が用意されている国内のペアトレとして3つを挙げ、表にまとめています。その1つめが「精研・まめの木・奈良式」です[1]。この系統の特徴は、ガイドブックの記述では次のとおりです。

  • 成り立ち:米国の UCLA で開発された ADHD のある子どもの保護者向けプログラムを基礎とする。当初は ADHD にともなう親子関係の悪化の改善と予防、子どもの適応行動を増やすことを目的としていた。現在は ASD の問題にも適用できるようテーマと対応方法が工夫され、発達障害全般のプログラムに発展している
  • グループ活動:全体での講義とグループワークで各回のテーマを学び、そのテーマをホームワークとして各家庭で実施し、次回に結果をグループで共有する。参加者同士のピア・サポートを大切にする。回数は10回程度。グループワークではとくにロールプレイを重視する
  • ねらい:保護者の否定的な関心を肯定的な関心に変えるため、子どもの適切な行動を見つけてほめる(肯定的な注目を与える)ことを重視する。行動理論を基礎にしつつ、専門用語ではなく馴染みやすい日常的な表現で説明する

そのうえで、奈良式が他と区別して語られる点として一次資料から確かに言えるのは、指導者(インストラクター)の養成研修が用意されていて、奈良県外の自治体がそれを受けて自分の地域でペアトレを立ち上げていることです。同じガイドブックの自治体実施例に、次のように出てきます[1]

  • 大阪府堺市:発達コーディネーターは「全員が奈良方式の研修を受け、最初はサブでプログラムに入り、ペアトレを実施できるよう研鑽を積んでいる」
  • 兵庫県明石市:2014年にセンター職員(保健師)が「奈良式のインストラクター養成講座」に参加。翌2015年から学齢期対象のプログラムを実施
  • 宮城県気仙沼市:「奈良方式の短縮版ペアレント・トレーニング」を通称『ひまわり教室』として2014年度から実施

つまり奈良式は、奈良の中だけで完結しているものではなく、他地域が持ち帰って自分の事情に合わせて組み替えるための「型」として使われてきた、というのがガイドブックから読み取れる姿です。気仙沼のように震災後の事情に合わせて回数を減らした短縮版もあります。

② 生まれた理由・経緯

奈良でのペアトレは、児童精神科医の岩坂英巳氏を中心に始まりました。氏は1987年に奈良県立医科大学精神医学教室に入局し、助手・講師を経て、2004年に奈良教育大学教授、2007年に同大学の特別支援教育研究センター長を務めています[2]医療から教育へ場を移しているのが、この系統の経歴上の特徴です。

プログラムとしての最初のまとまった報告は、2002年の「注意欠陥/多動性障害(AD/HD)児の親訓練プログラムとその効果について」(岩坂英巳・清水千弘・飯田順三、『児童青年精神医学とその近接領域』43巻5号 483〜497頁)です[6]

2004年には、岩坂氏の編著で『AD/HD児へのペアレント・トレーニングガイドブック — 家庭と医療機関・学校をつなぐ架け橋』(じほう)が出ています[5]。書名の副題が「家庭と医療機関・学校をつなぐ架け橋」であることは、この系統が当初から家庭の中だけで完結させないことを掲げていた手がかりになります。ただし、それがプログラムの何回目にどう置かれているかまでは、本ページで当たれた一次資料では確認できませんでした(末尾)。

③ 歴史

できごと出典
1987岩坂英巳氏、奈良県立医科大学精神医学教室に入局(以後 助手・講師)[2]
2002「AD/HD児の親訓練プログラムとその効果について」を『児童青年精神医学とその近接領域』43(5) に発表[6]
2004『AD/HD児へのペアレント・トレーニングガイドブック — 家庭と医療機関・学校をつなぐ架け橋』(じほう)刊行。同年7月に『AD/HDのペアレント・トレーニングガイドブック』と改題[5]
2004岩坂氏、奈良教育大学教授に[2]
2007同大学 特別支援教育研究センター長に[2]
2012『困っている子をほめて育てる ペアレント・トレーニングガイドブック — 活用のポイントと実践例』(じほう)刊行[4]
2014明石市が職員を奈良式のインストラクター養成講座へ派遣/気仙沼市が奈良方式の短縮版「ひまわり教室」を開始[1]
2016発達障害者支援法の改正を受けて日本ペアレント・トレーニング研究会が発足。岩坂氏が初代会長。同年、氏は信貴山病院ハートランドしぎさん 子どもと大人の発達センター長に[2]
2020厚労省『ペアレント・トレーニング実践ガイドブック』が「精研・まめの木・奈良式」として掲載[1]
2021『困っている子をほめて育てる ペアレント・トレーニングガイドブック 第2版』(じほう, B5判376頁)刊行[4]

④ 実施主体・主催

奈良教育大学 特別支援教育研究センター

公式サイトの「保護者・子ども向けプログラム」に「学習支援プログラムやペアレントトレーニングなど、発達障害のある子どもとその保護者を対象としたプログラムを行っています」と明記されています[3]。開催はその都度サイトで告知される形で、2023年にも「ペアレント・トレーニング 研究協力者募集」が出ています(そのときは通常のプログラムに加えて「子どもがインターネットやゲームと上手につき合っていくにはどうしたら良いか」を扱う回が入っていました)。

  • Tel/Fax:0742-27-9314(電話受付は火・水・木曜のみ/11:00〜13:00・14:00〜16:00。祝日を除く)
  • センターの目的:「特別支援教育に関わる理論と実践に関する教育研究を総合的に行い、特別支援教育を担う人材の養成に寄与するとともに、地域における児童生徒等の教育的ニーズに応じた特別支援教育推進に貢献すること」

奈良県発達障害者支援センター「でぃあー」

国の「発達障害者支援センター事業」に基づき、奈良県から社会福祉法人宝山寺福祉事業団に委託されて設立された県の拠点です。開設は2006(平成18)年1月10日[7]

  • 所在地:奈良県磯城郡田原本町多722番地(奈良県障害者総合支援センター内)
  • Tel:0744-32-8760/Fax:0744-32-8761

⑤ 発案者/開発者

岩坂英巳(いわさか ひでみ)氏。日本ペアレント・トレーニング研究会が公開している役員紹介に、次の経歴が載っています[2]

  • 1987年 奈良県立医科大学精神医学教室 入局(同 助手、講師を経て)
  • 2004年 奈良教育大学教授(2007年 特別支援教育研究センター長)
  • 2016年 一般財団法人信貴山病院ハートランドしぎさん 子どもと大人の発達センター長

同研究会は2016年の発達障害者支援法改正を受けて発足し、岩坂氏はその初代会長です。研究会は「ペアトレ基本プラットホーム」(ここだけはおさえておきたいペアトレの内容・運営)の普及と効果判定、指導者養成研修の開催などを掲げています[2]。なお現在の会長は井上雅彦氏(鳥取大学大学院医学系研究科 教授。鳥取大学式の側の研究者)で、副会長は中田洋二郎氏(立正大学心理学部 名誉教授)と奥野裕子氏(大阪公立大学大学院看護学研究科 准教授)です。

主な著書に『困っている子をほめて育てる ペアレント・トレーニングガイドブック — 活用のポイントと実践例』(じほう。2012年初版、2021年6月に第2版・B5判376頁)があります。第2版では「日本ペアレント・トレーニング研究会」推奨の「基本プラットホーム」の概要、父親参加(パパトレ)、発達障害者支援センターにおける実施の工夫が加わりました[4]。厚労省ガイドブックも、この系統の「主な参考図書」としてこの本と、上林靖子・北道子・河内美恵ほか『発達障害のペアレント・トレーニング実践マニュアル』(中央法規, 2009)を挙げています[1]

⑥ 回数と各回テーマ

回数は10回程度。これは厚労省ガイドブックが「精研・まめの木・奈良式」の欄に書いている表現そのままです[1]。「全10回」と言い切らず「10回程度」としているのは、実施機関によって幅があるためと読めます。

実際、短縮版も使われています。気仙沼市の『ひまわり教室』は、震災後で生活再建に追われる保護者でも取り組めるよう内容を精選し、1回2時間・全6回、最終回に修了証書を贈り、1か月後に第7回「近況報告会」を置く形です[1]。ただし短縮版はあくまで各地域の運用であり、これ単独で別の方式になるわけではありません。

🔴 奈良方式そのものの「各回テーマ一覧」は、このページで当たれた一次資料では確認できませんでした。系統が同じである以上、大枠は精研式の10回セッション構成と重なると考えられますが、他機関の回次表を奈良方式のものとして載せることはしません(→ 末尾)。

⑦ どこで受けられるか

奈良県内

奈良県発達障害者支援センター「でぃあー」が、帝塚山大学こころのケアセンターとの共催で保護者向けのペアレント・トレーニング講座を開いています。2026年春の募集要項(2026年9月4日に公式サイトで確認)はこうなっています[7]

  • 名称:ペアレント・トレーニング@でぃあー2026春講座
  • 日程:2026年6月18日(木)から全6回(各回木曜・10:00〜12:00)
  • 場所:帝塚山大学 学園前キャンパス(奈良市学園南3-1-3)
  • 対象:県内在住で、4歳〜小学2年生までの子どもをもつ保護者(診断・手帳の有無は問わない)
  • 定員:6名(最少催行3名)/託児あり(2歳〜就学前・3名程度、要相談)
  • 参加費:1回2,000円 × 6回=12,000円(初回に全額)
  • ファシリテーター:平田小百合・小畑咲子(でぃあー相談員/臨床心理士・公認心理師)
  • スーパーバイザー:式部陽子(帝塚山大学心理学部心理学科 准教授/臨床心理士・公認心理師)
  • 主催:奈良県発達障害者支援センター でぃあー/共催:帝塚山大学こころのケアセンター

この講座の各回のテーマは、①オリエンテーション・自己紹介/子どもの良いところ探し ②子どもの行動を観察しよう ③子どもの行動を理解しよう ④ほめるチャンスを増やそう/ほめるための環境を整えよう ⑤子どもに伝わる指示/子どもが達成しやすい指示/望ましい行動を増やすための工夫 ⑥講座のまとめ・修了式、です[7]なお、この募集要項に「奈良方式」という方式名の記載はありません。奈良県内で実際に受けられるペアトレの実例として挙げています。

もう1つの窓口が奈良教育大学 特別支援教育研究センターです。こちらは募集がその都度サイトに出る形なので、開催時期は公式サイトで確認してください[3]

奈良県外

①で見たとおり、奈良式の指導者研修を受けた自治体が各地でペアトレを実施しています。ただし各自治体は「奈良式」を名乗らず、「◯◯市版」「のびのび子育て講座」「ひまわり教室」といった地域の通称で開いていることが多く、チラシを見ただけでは方式名はわかりません。お住まいの地域の発達障害者支援センターに問い合わせるのが確実です。

👉 全国のペアトレ講座を探す(講座一覧)

👉 費用はいくら?無料で受ける方法講座の探し方ガイド

この記事で確認できなかったこと

  • 奈良方式の各回テーマ(全10回の一覧):厚労省ガイドブック、奈良教育大学 特別支援教育研究センター公式、でぃあー公式のいずれにも、奈良方式そのものの回次表は載っていませんでした。岩坂英巳 編著のガイドブック(じほう)は書誌のみ確認し、本文は参照していません
  • 「第9回に学校・園との連携のセッションがある」当サイトが以前そう書いていたのは誤りでした。厚労省ガイドブック p.33 のその回次表はまめの木クリニック(東京都江戸川区の児童精神科クリニック)の精研式プログラムのものです。奈良方式の回次表として確認できる一次資料はありません
  • 「奈良方式」という呼称を定義している出典:厚労省ガイドブックは自治体の実施例の中で「奈良方式の研修」「奈良式のインストラクター養成講座」と書いていますが、呼称そのものの定義は示していません
  • 岩坂英巳氏の現在の所属:2016年時点の役職までを一次資料で確認しています。それ以降の異動は確認していないため、本文は年つきの経歴として書いています

⑧ 出典(一次資料)

いずれも2026年9月4日に本文を開いて確認しています。

[1] 厚生労働省『ペアレント・トレーニング実践ガイドブック』令和元年度障害者総合福祉推進事業(作成:一般社団法人 日本発達障害ネットワーク JDDnet 事業委員会/協力:日本ペアレント・トレーニング研究会), 2020年 — 表3「3つのペアレント・トレーニングのプログラムの特徴」(p.23)、自治体実施例 堺市 (p.27)・明石市 (p.29)・気仙沼市 (p.30-31)、医療機関実施例 まめの木クリニック (p.32-33) https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000653549.pdf

[2] 日本ペアレント・トレーニング研究会「理事・役員紹介」 https://parent-training.jp/profile.html

[3] 奈良教育大学 特別支援教育研究センター(公式) https://www.nara-edu.ac.jp/cp-support/https://cp-support2.nara-edu.ac.jp/hp/

[4] 株式会社じほう『ペアレント・トレーニングガイドブック 第2版 — 困っている子をほめて育てる/活用のポイントと実践例』岩坂英巳 編著, 2021年6月, B5判376頁, ISBN 9784840753579(出版社公式ページ) https://www.jiho.co.jp/products/53579

[5] 国立国会図書館サーチ — 岩坂英巳 編著『AD/HD児へのペアレント・トレーニングガイドブック : 家庭と医療機関・学校をつなぐ架け橋』じほう, 2004年3月(同年7月に『AD/HDのペアレント・トレーニングガイドブック』と改題) https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007331150

[6] CiNii Research — 岩坂英巳・清水千弘・飯田順三「注意欠陥/多動性障害(AD/HD)児の親訓練プログラムとその効果について」『児童青年精神医学とその近接領域』43巻5号, 483-497頁, 2002年(書誌のみ確認。本文は未参照) https://cir.nii.ac.jp/crid/1520572359662678656

[7] 奈良県発達障害者支援センター「でぃあー」(公式) — トップ/令和8年度 研修会等案内/「ペアレント・トレーニング@でぃあー2026春講座」募集要項 PDF http://deardeer.hozanji-wel.org/


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