
この記事は、ペアレントトレーニング(ペアトレ)について日本語で最も詳しい解説記事を目指してまとめたものです。厚生労働省のガイドブック・支援者用マニュアル、主要な学術文献をもとに、定義から歴史、コアエレメント6要素、主要方式の比較、エビデンス、実施の流れ、受講方法まで、約18,000文字で網羅的に解説します。
目次
- 第1部: ペアレントトレーニング(ペアトレ)とは
- 第2部: ペアトレの歴史と発展
- 第3部: コアエレメント6要素 — ペアトレの核心
- 第4部: 主要プログラム(方式比較)
- 第5部: エビデンス(効果の科学的根拠)
- 第6部: 実施の流れと運営
- 第7部: どこで受けられるか・費用
- 第8部: よくある質問Q&A
- 注釈・参考文献
第1部: ペアレントトレーニング(ペアトレ)とは
ペアトレの定義
ペアレントトレーニング(以下「ペアトレ」)とは、「子どもの行動変容を目的として、親が褒め方や指示などの具体的な養育スキルを獲得することを目指すプログラム」です[1]。英語では “Parent Training” と表記され、海外では “Behavioral Parent Training(BPT)” や “Parent Management Training(PMT)” とも呼ばれます。
ペアトレの根底にある考え方は、次のようにまとめることができます。
「この子が悪いわけではない、私の育て方の失敗ではない、でも私(親)がかかわり方を変えることから始めてみよう」
厚生労働省『ペアレント・トレーニング実践ガイドブック』p.10
つまり、ペアトレは「子どもを変えるプログラム」ではありません。子どもの障害特性や困りごとの原因を親のせいにするものでもありません。あくまで親が具体的な関わり方のスキルを学ぶことで、親子の関係がよい方向に変わり、その結果として子どもの行動も変わっていくというアプローチです。
ペアトレは行動療法(応用行動分析:ABA)の理論に基づいています。子どもの行動を「良い行動」「好ましくない行動」「許しがたい行動」の3つに分類し、それぞれに対する対応を体系的に学びます。「ほめる」を中心としたポジティブな関わり方を身につけることで、子どもの適応的な行動を増やし、問題行動を減らすことを目指します。
ペアトレの対象 — 診断名がなくても受けられる
ペアトレは当初、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)といった発達障害のある子どもの保護者を主な対象として発展してきました。しかし現在では、対象は診断名のある子どもの保護者に限りません。
具体的には、以下のような方がペアトレの対象となりえます。
- ADHD、ASD、学習障害(LD)など発達障害の診断がある子どもの保護者
- 発達障害の疑いがある子どもの保護者
- いわゆる「グレーゾーン」の子どもの保護者(→ 発達障害グレーゾーンの子育てがしんどい)
- 診断はないが子育てに困り感を抱えている保護者
- 子どものかんしゃくや行動の問題に悩んでいる保護者(→ 子どもの癇癪にもう限界…)
厚生労働省のガイドブックでも、「発達障害の診断の有無にかかわらず、子どもへのかかわり方を学びたいと考える保護者に広く適用できる」という趣旨が示されています[1]。
ペアプロ(ペアレント・プログラム)との違い

ペアトレとよく混同されるものに「ペアレント・プログラム(ペアプロ)」があります。両者はともに保護者支援のプログラムですが、目的と内容が異なります。
ペアレント・プログラムは、「保護者の認知を肯定的に修正すること」に焦点を当てた簡易版のプログラムです[2]。「行動で考える」をキーワードに、子どもや自分自身の行動を客観的に捉え直す練習を行います。全6回程度と比較的短期間で、専門的な知識がなくても実施しやすい設計になっています。
一方、ペアトレは「行動変容」まで踏み込みます。子どもの行動を分析し、ほめ方・指示の出し方・問題行動への対応法など、具体的な養育スキルの習得を目指します。全5〜10回程度で、実施にはファシリテーターの専門性が求められます。
| ペアレント・プログラム(ペアプロ) | ペアレントトレーニング(ペアトレ) | |
|---|---|---|
| 目的 | 保護者の認知を肯定的に修正 | 具体的な養育スキルの習得と行動変容 |
| 回数 | 全6回程度 | 全5〜10回 |
| 内容 | 行動で考える、自己理解 | 行動の3分類、ABC分析、ほめ方、CCQなど |
| 実施者 | 保育士等でも実施可能 | 心理士等の専門職が望ましい |
| 位置づけ | ペアトレの導入・入門的プログラム | 養育スキル獲得プログラム |
ペアプロはペアトレの前段階として位置づけられることが多く、「まずはペアプロで親としてのストレスや認知を整理し、次のステップとしてペアトレで具体的なスキルを学ぶ」という段階的な支援も推奨されています。
ペアレント・メンターとの違い
もう一つ混同されやすいのが「ペアレント・メンター」です。ペアレント・メンターとは、発達障害のある子どもを育てた経験のある親が、同じ立場の親の相談相手になるピアサポートの仕組みです(→ ペアレント・メンターとは?)。
ペアトレが「スキルを教えるプログラム」であるのに対し、メンターは「体験を分かち合い、情報を提供する存在」です。メンターは専門家ではなく、あくまで先輩の保護者としての立場で相談に応じます。
ペアトレ・ペアプロ・メンターはそれぞれ異なる支援ですが、互いに補完関係にあります。自治体によっては、これらを組み合わせて段階的な保護者支援体制を構築しているところもあります。
第2部: ペアトレの歴史と発展

ペアトレの歴史を知ることは、このプログラムの成り立ちと意義を深く理解する助けになります(→ 詳細記事: 日本におけるペアトレの歴史と発展)。
1960年代: アメリカでの誕生
ペアトレの原型は、1960年代のアメリカで生まれました。応用行動分析(ABA)の発展とともに、専門家が直接子どもに介入するだけでなく、日常生活で最も長い時間を子どもと過ごす親自身が行動変容の担い手になるという発想が広がりました。
Constance Hanf(コンスタンス・ハンフ)がオレゴン健康科学大学で開発した「2段階モデル」は、その後の多くのペアトレプログラムの原型となりました。第1段階では親子の良好な関係構築(ほめる、注目する)に焦点を当て、第2段階では従わない行動への対応を学ぶという構成です[3]。
1970〜80年代にかけて、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のPCIT(親子相互交流療法)やTriple P(前向き子育てプログラム)など、様々なバリエーションが開発されました。
1990年代: 日本への導入
日本にペアトレが本格的に導入されたのは1990年代後半です。複数の研究グループが、それぞれ独自に海外のプログラムを日本の文化や医療体制に合わせて翻案しました。
- 肥前式(国立肥前療養所/現・肥前精神医療センター): 知的障害のある子どもの保護者向けに開発。環境調整を重視した日本独自のプログラム
- 精研式(国立精神・神経センター精神保健研究所/上林靖子らのグループ): UCLA方式をもとにADHDの子どもの保護者向けに翻案。日本で最も広く普及した方式の一つ
- 奈良式(奈良教育大学/岩坂英巳らのグループ): 学校との連携を重視。教育現場での実践を見据えた設計
- 鳥取大学式(鳥取大学/井上雅彦らのグループ): ASDの子どもの保護者向けに開発。基礎コースと応用コースの2コース制
2000年代〜2010年代: 法的位置づけの確立
2005年に「発達障害者支援法」が施行されました。これにより発達障害が法的に定義され、支援体制の整備が始まりました。ペアトレはこの流れの中で、発達障害支援における有効な保護者支援プログラムとして認知されるようになります。
2016年には「改正発達障害者支援法」が施行されました。改正法では「家族支援」の重要性が一層強調され、ペアトレの普及を後押しする形となりました。具体的には、都道府県・政令指定都市の発達障害者支援センターの機能として、家族支援が明確に位置づけられました[4]。
2019年: 基本プラットフォームの策定
日本のペアトレの歴史において画期的な出来事が、2019年の厚生労働省「ペアレント・トレーニング実践ガイドブック」の策定です。それまで各方式がそれぞれの理論と経験に基づいて独自に発展してきたペアトレに、初めて全国共通の「基本プラットフォーム」が定められました[1]。
このガイドブックでは、方式を問わずペアトレに共通して含まれるべき「コアエレメント」6要素が標準化されました。これにより、どの方式のペアトレであっても一定の質が担保される枠組みが整ったのです(→ 厚労省ガイドブックから読み解く「ペアトレの標準モデル」)。
2021年〜現在: 政策的な普及促進
2021年以降、国は障害福祉計画の活動指標にペアトレを組み込むことを検討しています。「第7期障害福祉計画」(2024〜2026年度)では、ペアトレの実施体制の整備が成果目標の一つとして位置づけられ、自治体による実施率の向上が目標に掲げられています[5]。
また、発達障害者支援地域協議会の活動において、ペアトレの実施状況が報告項目に含まれるようになるなど、政策面での位置づけは年々強化されています。
第3部: コアエレメント6要素 — ペアトレの核心

2019年に厚生労働省が策定した「基本プラットフォーム」では、ペアトレの中核となる6つのコアエレメントが定められています[1]。これらは、どの方式のペアトレであっても必ず含まれるべき共通要素です。
この第3部では、6つのコアエレメントそれぞれを具体例とともに詳しく解説します。
コアエレメント1: 子どもの良いところ探し&ほめる
ペアトレの最も根幹にあるのが、「子どもの良いところを見つけてほめる」というスキルです。これは単なる精神論ではなく、行動療法の「正の強化」という原理に基づいています。
「正の強化」とは、ある行動の直後に良いこと(ほめ言葉、注目、ごほうびなど)が起きると、その行動が繰り返されやすくなるという原理です。つまり、子どもの適応的な行動に注目し、ほめることで、その行動をもっと増やすというアプローチです。
なぜ「良いところ探し」から始めるのか
発達障害のある子どもの保護者は、日々の困りごとに追われるうちに、子どもの「できないこと」や「困った行動」に注目しがちになります。これは自然な反応です。しかしその結果、叱責や注意が増え、親子関係がネガティブなサイクルに陥ることがあります。
ペアトレでは、まず意識的に子どもの「できていること」に目を向ける練習から始めます。これは親にとっても大きな転換点になります。「言われなくても靴を揃えた」「弟におもちゃを貸してあげた」「朝、自分で起きてきた」——こうした日常の小さな行動に気づき、言葉にして伝えることが第一歩です。
効果的なほめ方のポイント
ほめるときにはいくつかのコツがあります。
- 具体的にほめる:「すごいね」だけでなく、「自分から宿題を始めたんだね、えらいね」と何がよかったかを言葉にする
- すぐにほめる: 行動の直後(できれば3秒以内)にほめると、子どもは何がよかったのか理解しやすい
- 非言語的なほめ方も活用する: 笑顔、うなずき、頭をなでる、ハイタッチなど。言葉がうまく伝わりにくい子どもには特に有効
- 子どもの特性に合わせる: ASDのある子どもの中には、大げさなリアクションが苦手な子もいます。穏やかな声で端的に伝える方が効果的な場合もあります
- 25%ルール: 完全にできていなくても、25%でもできていたらほめる。「途中まで片づけられたね」という声かけが次への意欲につながります
場面別の具体例
朝の支度の場面: 着替えに時間がかかる子に対して、「靴下を自分で履けたね!」と、できた部分に注目してほめる。全部完了してからほめるのではなく、一つひとつの行動をほめていくことで、次の行動への動機づけになります。
食事の場面: 好き嫌いが多い子が苦手な野菜を一口でも食べたら、「お、ブロッコリー食べてみたんだ!」とすかさず認める。「全部食べなさい」ではなく、チャレンジしたこと自体を評価します。
きょうだい関係の場面: おもちゃの取り合いが多い子が、弟に「これ使っていいよ」と言えたとき、「弟に貸してあげられたね、やさしいね」と具体的にほめることで、向社会的な行動を強化します。
コアエレメント2: 行動の3分類(3つのタイプわけ)

ペアトレの中核技法の一つが、子どもの行動を3つのカテゴリーに分類する方法です(→ 詳細記事: ペアトレの基本「行動の3分類」とは?)。
3つのカテゴリー
1. 好ましい行動(増やしたい行動)
→ 対応: ほめる・認める・注目する
あいさつができた、約束を守った、宿題に取り組んだなど、今すでにできている良い行動と、もう少し増えてほしいと思う行動を含みます。
2. 好ましくない行動(減らしたい行動)
→ 対応: 計画的無視・環境調整・指示の工夫
ぐずぐず言う、何度も同じことを聞く、食事中に立ち歩くなど、困るけれど危険ではない行動。叱責するのではなく、注目を外し、好ましい行動が出たときにほめるという対応が基本です。
3. 許しがたい行動(絶対にやめてほしい行動)
→ 対応: 毅然と制止する(警告・タイムアウトはオプション)
人を叩く、物を壊す、危険な行動など、安全にかかわる行動。こうした行動に対しては、感情的にならず毅然とした態度で制止します。
分類のコツ
行動を3つに分けるとき、ガイドブックでは以下のバランスが推奨されています[1]。
- 「好ましい行動」に半数以上を入れる(「今できている行動」を積極的にリストアップ)
- そのうち半数弱は「もっと増えたらよいと思う行動」を含める
- 「許しがたい行動」は本当に安全にかかわるものだけに限定する
多くの保護者が最初は「好ましくない行動」や「許しがたい行動」ばかりリストアップしがちですが、ワークを通じて「実はこんなにできていることがある」と気づくことが、ペアトレの大きな転換点になります。
コアエレメント3: 行動理解(ABC分析)

ABC分析は、子どもの行動を「なぜその行動が起きるのか」を客観的に分析するためのフレームワークです(→ 関連記事: 「わがまま」に見える子どもの行動、どう対応する?)。
- A(Antecedent): 行動の前のきっかけ — 何が引き金になったか
- B(Behavior): 行動 — 実際に子どもが何をしたか
- C(Consequence): 行動の後の結果 — 行動の後に何が起きたか
具体例で理解するABC分析
例1: スーパーでのかんしゃく
- A(きっかけ): おもちゃ売り場の前を通った
- B(行動): 「買って!」と泣き叫んだ
- C(結果): 困った親がおもちゃを買った
この場合、「泣き叫ぶとおもちゃが手に入る」という結果が行動を強化(増加)させています。対応策としては、A(きっかけ)を変える(おもちゃ売り場を通らないルートにする)、C(結果)を変える(泣いても買わない一貫した対応をする)などが考えられます。
例2: 宿題の場面
- A(きっかけ): 難しい算数のプリントが出された
- B(行動): 「やりたくない!」と怒ってプリントを破った
- C(結果): 親が「もういいよ」と宿題を免除した
この場合、「怒るとやらなくていい」という結果が問題行動を強化しています。A(きっかけ)に対して「量を減らして取り組みやすくする」「横について一緒にやる」などの環境調整を行い、少しでも取り組めたらほめるという対応が効果的です。
ABC分析のポイントは、子どもの行動を「悪意」や「性格」のせいにせず、きっかけと結果の関係から理解することです。行動には必ず理由(機能)があり、その理由を分析することで効果的な対応が見えてきます。
コアエレメント4: 環境調整(行動が起きる前の工夫)
環境調整とは、問題行動が起きる前に環境を整えることで、問題行動を予防するアプローチです(→ 詳細記事: 環境調整とは? — 子どもの行動が変わる家庭の工夫15選)。ABC分析の「A(きっかけ)」を変えるということです。
環境調整の主な方法
刺激を減らす
- 宿題をするときはテレビを消す、おもちゃが視界に入らないようにする
- 気が散りやすい子の勉強机は壁に向けて配置する
- 感覚過敏のある子のために、蛍光灯をLEDに変える、BGMの音量を下げるなど
スケジュールの見える化
- 1日の流れをホワイトボードやイラストカードで提示する
- 「あと5分で終わりだよ」とタイマーを使って見通しを持たせる
- 予定の変更は事前に予告する(ASDのある子どもには特に重要)
ルールの提示
- 家庭のルールを「○○するときは△△しよう」と肯定的な表現で示す
- 「走らない」ではなく「歩こうね」と、してほしい行動を伝える
- ルールは3〜5つに絞り、目に見える場所に掲示する
選択肢を与える
- 「宿題やりなさい」ではなく「算数と国語、どちらから始める?」と選ばせる
- 子ども自身が決めたという感覚(自己決定感)が、取り組みへの動機づけを高めます
環境調整は「子どもを変える」のではなく「環境を変える」アプローチです。子どもが成功しやすい環境を整えることで、ほめる機会を増やし、良い循環を作り出します。
コアエレメント5: 子どもが達成しやすい指示(CCQ)
CCQは、子どもに指示を出すときの基本姿勢を表す頭文字です(→ 詳細記事: 子どもに伝わる指示の出し方「CCQ」)。
- C — Calm(穏やかに): 感情的にならず、落ち着いた声のトーンで
- C — Close(近づいて): 離れた場所から叫ぶのではなく、子どものそばまで行って
- Q — Quiet(静かに): 小さめの声で、端的に
CCQが効果的な理由
多くの保護者は、つい離れた場所から大きな声で指示を出しがちです。「早く片づけなさい!」「何度言ったらわかるの!」——こうした指示は、特に発達障害のある子どもには届きにくいのです。
ADHDのある子どもは注意の切り替えが難しいため、遠くからの声は「雑音」として処理されてしまうことがあります。ASDのある子どもは、感情的な声のトーンに敏感で、内容よりも「怒っている」という感情情報に圧倒されてしまうことがあります[6]。
CCQは、こうした子どもの特性を踏まえた、「届きやすい指示の出し方」です。
効果的な指示のコツ
- 一度に一つの指示: 「手を洗って、着替えて、宿題を出して」ではなく「まず手を洗おう」
- 肯定的な表現: 「走らないで」ではなく「歩こうね」
- 具体的に: 「ちゃんとしなさい」ではなく「椅子に座ろうね」
- 視覚的な手がかりを併用: 言葉だけでなく、実物を見せる、ジェスチャーを使う
- できたらすぐほめる: 指示に従えたら間をおかずにほめることで、「指示を聞く→ほめられる」のサイクルを作る
CCQは「怒鳴らなくても伝わる」方法です。親自身のストレス軽減にもつながります(→ 子どもに怒鳴ってしまう自分が嫌…ペアトレで学ぶ「怒鳴らなくても伝わる」4つの方法)。
コアエレメント6: 不適切な行動への対応
6つ目のコアエレメントは、子どもの好ましくない行動への対応です。ここでの中心的な技法が「計画的無視(プランド・イグノアリング)」です。
計画的無視とは
計画的無視とは、子どもの好ましくない行動に対して注目を与えないことです。ただし、これは「無視して放置する」こととは根本的に異なります。
計画的無視の本質は、「ほめるために待つ」ことです[1]。好ましくない行動(例: ぐずぐず文句を言う)に対して叱責やなだめるなどの注目を与えず、その行動が収まって少しでも好ましい行動が見られたときにすかさずほめます。
計画的無視の手順
- 好ましくない行動が始まったら: 視線を外す、反応しない(ただし安全は確保する)
- 待つ: 好ましくない行動が減少するのを待つ(一時的に行動が激化する「消去バースト」が起きることがある)
- 好ましい行動が少しでも見られたらすかさずほめる: 「落ち着いて話してくれたね、ありがとう」
計画的無視の注意点
計画的無視には重要な前提条件があります。
前提条件: 計画的無視は、「ほめることをベースにしたかかわりが定着していること」が前提です[1]。ほめるスキルが身についていない段階で計画的無視だけを行うと、子どもは「何をしても無視される」と感じ、親子関係が悪化するリスクがあります。
- 安全に関わる行動には使わない: 人を叩く、危険な行動には毅然と制止する
- 消去バーストに備える: 無視を始めると、一時的に行動がエスカレートすることがあります。これは「もっとやれば注目してもらえるはず」という子どもの反応で、一定期間で収まります
- 家族で統一する: 父が無視しても母が反応してしまうと効果が出ません。家族全員で対応を統一することが重要です
許しがたい行動への対応
人を叩く、物を壊すなど安全にかかわる「許しがたい行動」に対しては、計画的無視ではなく毅然とした制止が必要です。感情的に怒るのではなく、低い声で短く「叩くのはダメ」と伝え、その場から離すなどの対応をとります。
警告やタイムアウト(一定時間、落ち着くための場所に移動する)はオプションの技法として、プログラムによって含まれる場合があります。いずれの場合も、落ち着いた後に好ましい行動をほめることがセットです。
第4部: 主要プログラム(方式比較)

日本では複数のペアトレ方式が開発・実践されています。それぞれに特徴がありますが、前述のコアエレメント6要素は共通して含まれています。ここでは代表的な4方式を詳しく紹介します。
精研式ペアレントトレーニング
開発元: 国立精神・神経センター精神保健研究所(現・国立精神・神経医療研究センター)
中心人物: 上林靖子
主な対象: ADHD(注意欠如・多動症)のある子どもの保護者
回数・時間: 全10回、各回2時間程度
UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で開発されたADHD児向けペアトレプログラムを、日本の文化・医療体制に合わせて翻案したものです。日本で最も広く普及している方式の一つで、多くの医療機関や発達障害者支援センターで実施されています[7]。
プログラムの構成は、行動の観察と分類から始まり、ほめ方の練習、CCQ、計画的無視、タイムアウト、トークンエコノミー(ごほうびシステム)と段階的に進みます。毎回のホームワーク(家庭での実践課題)が設定され、次回のセッションで振り返りを行います。
奈良式ペアレントトレーニング
開発元: 奈良教育大学
中心人物: 岩坂英巳
主な対象: ADHD・発達障害のある子どもの保護者
回数・時間: 全10回、各回2時間程度
奈良式の最大の特徴は「学校連携」を重視している点です。保護者がペアトレで学んだスキルを家庭だけでなく学校でも活用できるよう、担任教師との情報共有の仕組みが組み込まれています[8]。
具体的には、毎回のセッションの内容を担任に伝えるための「連絡シート」があり、家庭と学校で一貫した対応をとることを目指しています。教育現場でのペアトレ実施にも対応しており、学校を拠点とした保護者支援の先駆的なモデルです(→ 学校・教育現場でのペアトレ)。
肥前式ペアレントトレーニング
開発元: 国立肥前療養所(現・肥前精神医療センター)
主な対象: 知的障害・発達障害のある子どもの保護者
回数・時間: 全10回、各回2.5時間
肥前式は日本で独自に開発された方式で、環境調整と構造化を特に重視しています。知的障害のある子どもへの対応から発展したため、言語的な指示に頼らない視覚的な支援(スケジュール表、手順書など)の活用に力を入れています[9]。
各セッションが2.5時間と他方式より長めに設定されており、講義パートに加えてロールプレイやグループディスカッションの時間が十分に確保されています。
鳥取大学式ペアレントトレーニング
開発元: 鳥取大学
中心人物: 井上雅彦
主な対象: ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもの保護者
回数・時間: 基礎コース5〜6回、応用コース5〜6回
鳥取大学式の特徴は、基礎コースと応用コースの「2コース制」をとっている点です。基礎コースでは行動の理解とほめ方を中心に学び、応用コースではより実践的な対応スキルを習得します[10]。
ASDの子どもの保護者を主な対象としているため、コミュニケーション支援や社会的スキルの教え方なども含まれています。基礎コースだけでも一定の効果が得られるよう設計されており、忙しい保護者でも参加しやすい構成です。
方式比較一覧表
| 方式 | 開発元 | 主な対象 | 回数 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 精研式 | 国立精神・神経センター(上林靖子) | ADHD児の保護者 | 全10回 | UCLA方式の日本版。最も広く普及 |
| 奈良式 | 奈良教育大学(岩坂英巳) | ADHD・発達障害児の保護者 | 全10回 | 学校連携を重視。連絡シートによる家庭-学校連携 |
| 肥前式 | 国立肥前療養所 | 知的障害・発達障害児の保護者 | 全10回(各2.5h) | 環境調整と視覚的支援を重視 |
| 鳥取大学式 | 鳥取大学(井上雅彦) | ASD児の保護者 | 基礎5-6回+応用5-6回 | 2コース制。基礎コースだけでも参加可 |
どの方式が「最もよい」というわけではありません。子どもの特性、家庭の状況、お住まいの地域で利用可能なプログラムなどに応じて選択するのがよいでしょう。大切なのは、どの方式であってもコアエレメント6要素が含まれていることです。
その他の関連プログラム
上記4方式以外にも、日本で実施されている関連プログラムがあります。
- PCIT(親子相互交流療法): 親子が一緒にプレイルームに入り、イヤホンを通じてセラピストがリアルタイムでコーチングする方式。2〜7歳が主な対象
- Triple P(前向き子育てプログラム): オーストラリア発。5段階のレベルがあり、ユニバーサルな子育て支援から臨床的な介入まで幅広くカバー
- Incredible Years(IY): アメリカ発。ビデオ視聴とグループ討議を中心としたプログラム
- コモンセンス・ペアレンティング(CSP): ボーイズタウンが開発。虐待予防の観点も含む
第5部: エビデンス(効果の科学的根拠)
ペアトレの効果は、国内外の多くの研究で検証されています。ここでは、親への効果と子どもへの効果に分けて、主要なエビデンスを紹介します(→ 関連記事: ペアトレは効果なし? — 効果を感じられないときに見直すべき5つのポイント)。
親への効果
1. 養育スキルの向上
ペアトレを受講した保護者は、ほめる頻度の増加、肯定的な指示の増加、否定的・強制的な関わりの減少が多くの研究で報告されています。精研式ペアトレの効果研究では、受講後に「叱る・怒鳴る」が有意に減少し、「ほめる・認める」が有意に増加したことが示されています[7]。
2. 養育ストレスの軽減
ペアトレは保護者自身のストレスや精神的健康にも好影響を与えます。PSI(育児ストレスインデックス)を用いた研究では、ペアトレ受講後にストレス得点が有意に低下したことが報告されています[11]。これは、子どもの行動が改善することに加え、「何をすればよいかわかる」という自信が得られることによるものと考えられます(→ 子育てのイライラが止まらない…)。
3. 養育能力感(自己効力感)の向上
ペアトレ受講後に「自分は親としてやっていける」という自信(養育自己効力感)が向上することが、複数の研究で確認されています。これはペアトレの最も重要な効果の一つと言えます。具体的なスキルを学び、家庭で実践し、効果を実感するというプロセスが、保護者のエンパワメントにつながります。
子どもへの効果
1. 適応行動の増加
親の関わり方が変わることで、子どもの適応行動(指示に従う、自分から準備をする、約束を守るなど)が増加します。ペアトレは直接子どもに介入するプログラムではありませんが、親を介した間接的な効果として、行動面での改善が見られます。
2. 問題行動の改善
国際的なメタ分析では、ペアトレを含む行動的親訓練プログラムが子どもの外在化問題行動(攻撃、反抗、多動など)の改善に中〜大程度の効果量を示すことが報告されています[12]。日本の研究でも、CBCL(子どもの行動チェックリスト)やSDQ(子どもの強さと困難さアンケート)の得点改善が確認されています。
3. 親子関係の改善
ほめる関わりが増え、叱責が減ることで、親子関係の質が向上します。これは直接的な測定が難しい面もありますが、保護者の自己報告や質的研究(インタビュー調査)において、「子どもとの関係がよくなった」「子どもの良いところが見えるようになった」といった変化が一貫して報告されています。
国際的なエビデンスの状況
国際的には、ペアトレ(BPT/PMT)はADHDの子どもへの第一選択の心理社会的介入として推奨されています。アメリカ心理学会(APA)のガイドラインでは、特に就学前〜学童期のADHDに対して、行動的親訓練がエビデンスに基づく治療として最高レベルの推奨を受けています[13]。
NICE(英国国立医療技術評価機構)のガイドラインでも、ADHDの子どもの保護者に対するペアトレ(グループ形式の親訓練プログラム)が第一段階の介入として推奨されています[14]。
日本における課題
一方で、日本におけるペアトレの効果研究にはいくつかの課題があります。
- RCT(ランダム化比較試験)の少なさ: 多くの研究が前後比較デザインであり、厳密なRCTは限られています
- サンプルサイズの小ささ: 10〜30名程度の小規模研究が多く、結果の一般化には限界があります
- 長期追跡データの不足: ペアトレ終了直後の効果は示されていますが、6ヶ月〜1年後の維持についてのデータは限られています
- 日本文化における特有の要因: 「ほめる文化」が比較的弱い日本において、ほめるスキルの定着には追加的な工夫が必要かもしれません
これらの課題を踏まえつつも、既存のエビデンスは一貫してペアトレの有効性を支持しています。厚生労働省が基本プラットフォームを策定し、政策的に普及を推進していることも、エビデンスに基づく判断と言えるでしょう。
第6部: 実施の流れと運営

ペアトレを実際に運営する際の標準的な流れについて解説します。この情報は、ペアトレの受講を検討している保護者の方にとっても、「何が行われるのか」を事前に知る手がかりになるでしょう。
グループ形式が基本
ペアトレは原則としてグループ形式で実施されます[1]。1グループの参加人数は4〜8名が推奨されており、原則として途中からの参加者を受け入れない「クローズドグループ」の形態をとります。
クローズドグループにするのは、参加者同士の信頼関係を築き、安心して自分の悩みや課題を共有できる環境を作るためです。この「安心して話せる場」が、ペアトレの効果を高める重要な要素です。
回数と頻度
ペアトレの回数は方式によって異なりますが、基本プラットフォームでは全5回以上が推奨されています。一般的には隔週1回、1回あたり90〜120分のペースで実施されます。
隔週にするのは、セッション間にホームワーク(家庭での実践課題)に取り組む時間を確保するためです。毎週だと実践の時間が足りず、3週間以上空くと学んだことを忘れてしまうため、2週間が最適とされています。
各セッションの流れ
ペアトレの各セッションは、一般的に以下の流れで進みます。
- ウォーミングアップ(10分): 近況報告、「今週うまくいったこと」の共有。ポジティブな雰囲気づくり
- ホームワークの振り返り(20〜30分): 前回のセッションで出されたホームワーク(家庭での実践課題)の結果を共有。うまくいったことも、うまくいかなかったこともグループで話し合う
- 講義パート(20〜30分): その回のテーマについて、ファシリテーターが解説。理論的な背景と具体的なスキルを説明
- ロールプレイ・ワーク(20〜30分): 参加者同士でスキルの練習。子ども役と親役に分かれて実際にやってみる
- ホームワークの説明(10分): 次回までの家庭での実践課題を説明。具体的で取り組みやすい内容に設定
- まとめ・質疑応答(10分): その回の要点を振り返り。個別の質問にも対応
フォロー回の重要性
全セッション終了後、2〜3ヶ月後にフォロー回(フォローアップセッション)を設けることが推奨されています[1]。
フォロー回の目的は以下の通りです。
- 学んだスキルが日常生活で維持されているかの確認
- 新たに出てきた困りごとへのアドバイス
- 参加者同士のつながりの維持(ピアサポート機能の継続)
- 必要に応じて追加の個別支援につなげる
研究でも、フォロー回を設けたグループの方が、ペアトレの効果が長期的に維持されやすいことが示されています。
スタッフ体制
ペアトレの実施には、メインファシリテーター(1名)+サブファシリテーター(1〜2名)の体制が推奨されています[1]。
メインファシリテーターは、臨床心理士・公認心理師、医師、保健師など、心理学的な知識と支援の経験を持つ専門職が務めることが望ましいとされています。サブファシリテーターは、参加者のフォローやロールプレイの補助を担当します。
ピアサポート効果
ペアトレがグループ形式で行われることの大きなメリットの一つが、ピアサポート(仲間同士の支え合い)効果です。同じような悩みを持つ保護者が集まり、経験を共有する中で、「悩んでいるのは自分だけではない」という安心感が得られます[15]。
「あ、うちの子だけじゃないんだ」「同じことで悩んでいる人がいるんだ」——この感覚は、専門家から個別に指導を受けるだけでは得られない、グループならではの治療的な要素です。参加者同士が互いのホームワークの工夫を聞いて「うちでもやってみよう」と思うなど、実践的なアイデアの共有も活発に行われます。
第7部: どこで受けられるか・費用
ペアトレに興味を持ったら、次に気になるのは「どこで受けられるのか」「費用はいくらかかるのか」でしょう。ここでは主な受講先と費用の目安を紹介します。
主な受講先
ペアトレを受講できる場所は、大きく分けて以下の4つです(→ 詳細記事: ペアレントトレーニングはどこで受けられる?)。
- 発達障害者支援センター: 各都道府県・政令指定都市に設置。無料で実施しているところが多い(→ 発達障害者支援センター活用ガイド)
- 自治体(市区町村)の子育て支援事業: 保健センターや子ども家庭支援センターなどで実施。無料〜低額
- 医療機関: 児童精神科、小児科の発達外来など。保険適用外のことが多い
- 民間の療育機関・NPO: 放課後等デイサービスなどの障害福祉サービス事業所でも実施される場合がある
全国のペアトレ開催情報は、当サイトのイベント一覧ページでも随時更新しています。お住まいの地域のペアトレ講座を探す際にお役立てください。
費用の目安
ペアトレの費用は実施主体によって大きく異なります(→ 詳細記事: ペアレントトレーニングの費用はいくら?)。
- 自治体・公的機関: 無料〜数千円(テキスト代程度)
- 医療機関: 1回あたり3,000〜10,000円程度。全10回で30,000〜100,000円が目安
- 民間機関: 1回あたり5,000〜15,000円程度。機関によって差が大きい
費用が高額な場合でも、自立支援医療制度や障害福祉サービスの利用によって自己負担が軽減される場合があります。詳しくはお住まいの市区町村の障害福祉課にお問い合わせください。
まずはお住まいの都道府県の発達障害者支援センターに問い合わせるのが第一歩です。センターで直接実施していなくても、地域のペアトレ実施機関を紹介してもらえます。
第8部: よくある質問Q&A
Q1. ペアトレは何歳から何歳までの子どもが対象ですか?
A. 明確な年齢制限はありませんが、多くのプログラムは幼児期〜小学校低学年(3〜10歳ごろ)を主な対象としています。思春期の子どもへの対応を含むプログラムもありますが、思春期は親への反発が強くなる時期でもあり、ペアトレの内容をそのまま適用するには工夫が必要です。一般に、子どもの問題行動が定着する前の早い時期に始めるほど効果が高いとされています。
Q2. 診断がなくても受けられますか?
A. はい、受けられます。多くの自治体のプログラムでは、「子育てに困り感がある保護者」であれば診断の有無を問わず参加できます。「うちの子は発達障害とは言われていないけれど、育てにくさを感じている」という方こそ、ペアトレで学べるスキルが役に立つ場面が多いです(→ 発達障害グレーゾーンの子育て)。ただし、プログラムによっては医師の診断書や紹介状が必要な場合もありますので、事前に確認してください。
Q3. 父親も参加できますか?
A. もちろん参加できます。むしろ、両親で参加することが推奨されています。家庭内で一貫した対応をとるためには、両親が同じスキルを学んでいることが効果的です。実際には母親の参加が多い傾向にありますが、近年は父親の参加も増えています。夫婦一緒に参加すると、家庭での実践がスムーズに進む傾向があります。
Q4. ペアトレに通う時間がありません。独学でもできますか?
A. ペアトレのスキル自体は書籍で学ぶことも可能ですが、グループでの実践とフィードバックがペアトレの効果を高める重要な要素です。独学では、ロールプレイによる練習、ファシリテーターからの個別アドバイス、他の保護者とのピアサポートが得られません。とはいえ、まずは書籍やこのサイトの記事で基本的な考え方を知り、家庭で試してみることには十分な意義があります(→ ペアトレの具体的なやり方 — 家庭で今日からできる7つのステップ)。オンラインで受講できるプログラムも増えてきていますので、時間や場所の制約がある方は検討してみてください。
Q5. ペアトレを受けたら子どもはすぐに変わりますか?
A. ペアトレは「魔法」ではありません。効果が実感できるまでには通常2〜3ヶ月程度かかります。まず親の関わり方が変わり、それに応じて子どもの行動が少しずつ変化していくというプロセスです。「劇的な変化」よりも「地道な改善の積み重ね」を目指すプログラムです。初めは「ほめるところが見つからない」と感じることもありますが、続けるうちに「こんなにできていたことがあったのか」と気づくようになる保護者が多いです。
Q6. きょうだいにも同じ方法を使えますか?
A. はい、ペアトレで学ぶスキルはきょうだいを含む子育て全般に活用できます。行動の3分類やCCQ、ほめ方のスキルは、発達障害のある子どもに限らず、すべての子どもとの関わりに役立ちます。また、発達障害のある子のきょうだい(きょうだい児)への配慮も大切なテーマです(→ きょうだい児の気持ち)。
Q7. 子どもが薬物療法を受けていますが、ペアトレと併用できますか?
A. はい、併用は可能であり、むしろ推奨される場合が多いです。特にADHDの場合、薬物療法とペアトレの併用が最も効果的であるというエビデンスがあります[16]。薬で症状を緩和しながら、ペアトレで関わり方のスキルを身につけることで、相乗効果が期待できます。主治医に「ペアトレを受けたい」と相談してみてください。
Q8. グループで自分の悩みを話すのが苦手です。個別でも受けられますか?
A. グループでの共有が苦手という気持ちは自然なことです。多くの参加者が最初は同じ不安を感じますが、回を重ねるうちに「ここでは安心して話せる」と感じるようになるケースがほとんどです。それでも難しい場合は、個別形式のペアトレを提供している医療機関もあります。ただし、グループでのピアサポート効果は個別形式では得られないため、可能であればグループ参加をお勧めします。
Q9. ペアトレは「親の育て方が悪い」と言っているのですか?
A. 断じて違います。ペアトレは「親の育て方が悪いから子どもに問題がある」という考え方とは正反対の立場です。冒頭で紹介したように、ペアトレの基本的な考え方は「この子が悪いわけではない、私の育て方の失敗ではない、でも私がかかわり方を変えることから始めてみよう」です[1]。親を責めるのではなく、親を「専門家」として育てるのがペアトレの目的です。
Q10. ペアトレを受けたいのですが、近くに実施機関がありません。
A. コロナ禍以降、オンラインでのペアトレを提供する機関が増えています。Zoomなどのビデオ会議ツールを使って、自宅からグループセッションに参加できます。対面と同等の効果が得られるかについてはまだ研究の蓄積が進んでいる段階ですが、アクセスの改善という点では大きな前進です。当サイトのイベント一覧でもオンライン開催の情報を掲載していますので、ぜひご確認ください。
注釈・参考文献
本記事の内容は、以下の文献・資料に基づいています。
- [1] 厚生労働省(2019)『ペアレント・トレーニング実践ガイドブック』. 令和元年度障害者総合福祉推進事業. pp.6-14, 30-45.
- [2] 厚生労働省(2019)同上, p.6. ペアレント・プログラムは「保護者の認知を肯定的に修正すること、つまり、行動で考えることにより保護者の認知的な枠組みを修正すること」を目的としている.
- [3] Hanf, C. (1969). A two-stage program for modifying maternal controlling during mother-child (M-C) interaction. Paper presented at the meeting of the Western Psychological Association, Vancouver, BC.
- [4] 発達障害者支援法の一部を改正する法律(平成28年法律第64号). 第13条(家族等への支援).
- [5] 厚生労働省(2023)『第7期障害福祉計画及び第3期障害児福祉計画に係る基本指針』.
- [6] 井上雅彦(2018)「自閉スペクトラム症児の保護者を対象としたペアレントトレーニングの効果」『発達障害研究』40(3), pp.215-225.
- [7] 上林靖子ほか(2009)『こうすればうまくいく発達障害のペアレント・トレーニング実践マニュアル』中央法規出版.
- [8] 岩坂英巳ほか(2012)『困っている子をほめて育てる ペアレント・トレーニングガイドブック 活用のポイントと実践例』じほう.
- [9] 免田賢ほか(2000)「精神遅滞児の親訓練プログラムの開発とその効果に関する研究」『行動療法研究』26(1), pp.15-26.
- [10] 井上雅彦(2015)「ペアレント・トレーニングの多様性と今後の展望」『発達障害研究』37(4), pp.310-320.
- [11] 大隅紀子ほか(2015)「ADHDの子どもをもつ母親を対象としたペアレント・トレーニングの効果 —養育ストレスと養育態度の変化—」『小児の精神と神経』55(3), pp.225-233.
- [12] Kaminski, J. W., & Claussen, A. H. (2017). Evidence base update for psychosocial treatments for disruptive behaviors in children. Journal of Clinical Child & Adolescent Psychology, 46(4), pp.477-499.
- [13] American Psychological Association (2024). Clinical Practice Guideline for the Treatment of ADHD in Children and Adolescents.
- [14] National Institute for Health and Care Excellence (2018). Attention deficit hyperactivity disorder: diagnosis and management (NICE guideline NG87).
- [15] 中田洋二郎(2009)「ペアレント・トレーニングにおけるグループ支援の意義」『臨床心理学』9(4), pp.475-479.
- [16] The MTA Cooperative Group (1999). A 14-month randomized clinical trial of treatment strategies for attention-deficit/hyperactivity disorder. Archives of General Psychiatry, 56(12), pp.1073-1086.
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この記事が「ペアトレって何?」という疑問の答えになれば幸いです。ペアトレは、親を責めるのではなく親を支えるプログラムです。「まず知ること」が第一歩。この記事をきっかけに、一人でも多くの保護者がペアトレに出会えることを願っています。


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