発達障害のある子どもの子育てに全力で向き合っているうちに、ふと気づく。「あの子のこと、ちゃんと見てあげられていない」。兄弟姉妹――いわゆる「きょうだい児」のことが、心にひっかかっている方は多いのではないでしょうか。
きょうだい児は「手がかからない良い子」と見られがちです。でもその裏で、寂しさや怒り、罪悪感を一人で抱え込んでいることがあります。「この子はしっかりしているから大丈夫」と思っていたら、ある日突然、学校に行けなくなったり、体調を崩したりすることも珍しくありません。
この記事では、きょうだい児が抱えやすい気持ちを年齢別に整理し、ペアレント・トレーニング(ペアトレ)で学ぶ「公平な関わり方」について具体的なエピソードを交えながらお伝えします。
きょうだい児が抱えやすい4つの気持ち
1.「自分は後回しにされている」
発達障害のある子どもの癇癪や対応に親の時間とエネルギーが取られ、きょうだい児は「自分のことは見てもらえない」と感じやすくなります。参観日に来てもらえない、宿題を見てもらえない、話を聞いてもらえない――小さな「後回し」の積み重ねが、深い孤独感になります。
小3の妹・Aちゃんのお母さんは、ASDのある兄の対応に追われる日々。ある日、Aちゃんのランドセルから、くしゃくしゃに丸められた参観日のお知らせを見つけました。「お母さんは来ないと思ったから」とAちゃん。お母さんは、Aちゃんがもう「来てほしい」と言うことさえ諦めていたことに気づき、胸が痛んだそうです。
2.「自分がしっかりしなきゃ」
親の大変さを見ているから、「自分は迷惑をかけないようにしよう」「お兄ちゃん(お姉ちゃん)だからしっかりしなきゃ」と、年齢以上の我慢をしていることがあります。「良い子」でいることで親の負担を減らそうとしているのです。
小5のBくんは、ADHDのある弟が毎日のように癇癪を起こすのを見て育ちました。自分は宿題を言われなくてもやり、翌日の準備も自分でする「手のかからない子」。でも、ある日突然お腹が痛くなり、学校を休みがちに。心療内科で「ストレスが体に出ている」と言われ、お母さんは初めてBくんが限界だったことに気づきました。
3.「なんであの子ばっかり」
兄弟姉妹が特別扱いされていると感じ、怒りや嫉妬を抱くことがあります。でも同時に「障害があるから仕方ない」と思っている自分もいて、怒りを出せない。この感情の板挟みがきょうだい児を苦しめます。
「弟は怒られないのに、自分は怒られる」「弟だけ好きなおもちゃを買ってもらえる」。子どもの目には、障害への配慮が「ひいき」に映ることがあります。理屈ではわかっていても、感情は別です。
4.「自分のせいかも」「自分もなるかも」
幼い子どもは、兄弟姉妹の障害や家庭の大変さを「自分のせい」と感じることがあります。「お兄ちゃんを怒らせたから癇癪が起きた」と考えてしまうのです。また、「自分も障害があるんじゃないか」「自分の子どもにも遺伝するのでは」と不安を抱えることもあり、これは思春期以降も長く続くことがあります。
年齢別 — きょうだい児の反応と対応のポイント
幼児期(3〜6歳)
この時期のきょうだい児は、状況を言葉で説明できないため、行動で気持ちを表すことが多いです。急に赤ちゃん返りをする、夜泣きが始まる、園で乱暴になるなど。これらは「自分にも注目してほしい」というサインです。
対応のポイントは、スキンシップを増やすこと。抱っこ、膝の上で絵本を読む、一緒にお風呂に入るなど、言葉以上に「体の触れ合い」が安心感を与えます。幼児期のペアトレで学ぶ「注目」のスキルは、まさにこの場面で力を発揮します。
小学校低学年(1〜3年生)
「なんであの子だけ」という疑問が言語化できるようになる時期です。「ずるい」「不公平」という訴えが増えます。この時期は、「あなたの気持ちはもっともだよ」と受け止めた上で、簡単な言葉で状況を説明するのがよいでしょう。
たとえば、「○○ちゃんは、みんなが簡単にできることが難しいんだよ。だから少し手伝いが多いの。でも、あなたのことも同じくらい大切だよ」という伝え方です。
小学校高学年(4〜6年生)
友達の目が気になり始める時期です。「兄弟が障害者だと知られたくない」「友達を家に呼べない」という悩みが出てきます。これは「障害を恥ずかしいと思うなんて」と叱りたくなるかもしれませんが、子どもの年齢としてごく自然な反応です。
「恥ずかしいと思うこと自体は悪いことじゃないよ」と気持ちを認めつつ、「友達にどこまで説明するかは、あなたが決めていいよ」と自己決定の余地を残すことが大切です。
中学生以降
「将来、自分が面倒を見なければならないのか」という現実的な不安が出てきます。進路選択にも影響し、「親の近くにいなければ」と自分の希望を抑えてしまうことがあります。
この年齢のきょうだい児には、「あなたの人生はあなたのもの」と明確に伝えることが重要です。福祉制度や成年後見制度、グループホームなどの情報を共有し、「兄弟の将来はあなた一人が背負うものではない」と安心させてあげましょう。
ペアトレで学ぶ「きょうだい児との関わり方」— 5つの実践
実践1:きょうだい児にも「注目」の時間をつくる
ペアトレの基本は「好ましい行動に注目して褒める」こと。これはきょうだい児にも同じように大切です。
毎日5〜10分でもいいので、きょうだい児だけに向き合う「スペシャルタイム」をつくりましょう。「今から○○ちゃんの時間だよ」と宣言して、その子の話を聞く、一緒に遊ぶ。短い時間でも「自分だけを見てくれている」と感じられることが、きょうだい児の安心感につながります。
Aちゃんのお母さんは、毎晩寝る前の15分を「Aちゃんタイム」にしました。弟が寝た後に、Aちゃんの好きな塗り絵を一緒にしながらおしゃべりする時間です。2週間ほど続けたら、Aちゃんの表情が明らかに変わりました。「ねえ、明日のAちゃんタイム、折り紙にしよう!」と自分からリクエストするようになったのです。
実践2:「公平」と「同じ」は違うと伝える
「なんであの子だけ特別なの?」と聞かれたとき、年齢に応じて正直に伝えることが大切です。
- 幼児〜低学年:「○○ちゃんは△△が苦手だから、少しお手伝いが必要なんだよ。あなたには□□が得意だよね。お互い得意なことが違うんだよ」
- 高学年以上:「障害があると、みんなが当たり前にできることが難しいことがあるんだ。だからサポートの仕方がちょっと違う。でも、あなたのことも同じくらい大切に思っているよ」
ペアトレの行動の3分類の考え方は、きょうだい児への説明にも使えます。「○○ちゃんがパニックになるのは、わざとじゃなくて、コントロールが難しいんだよ」と、行動の背景を伝えることで理解を促せます。「怒っていい」「嫌だと思っていい」「でもわざとじゃないんだよ」を、セットで伝えましょう。
実践3:きょうだい児の「ネガティブな感情」を否定しない
「お兄ちゃんなんか嫌い!」「なんでうちだけこうなの!」「○○なんかいなければいいのに!」。こうした言葉が出たとき、「そんなこと言っちゃダメ」「お兄ちゃんは障害があるんだから」と否定するのは逆効果です。
CCQ(穏やかに、近づいて、静かに)の姿勢で、まず気持ちを受け止めましょう。「嫌だって思ったんだね」「悔しかったんだね」「怒っていいんだよ」。感情を出してもいいんだと思えることが、きょうだい児の心を守ります。
感情を受け止めた後で、「じゃあ、どうしたらいいか一緒に考えようか」と次のステップに進みます。感情の否定をスキップしないことが、信頼関係の土台になります。
実践4:「お手伝い役」にしすぎない
「あの子を見ていて」「面倒見てあげて」「お兄ちゃんが暴れたら教えて」。こうした頼み事が重なると、きょうだい児は「自分は世話係」だと感じます。
助けてくれたときは「ありがとう、助かったよ」と感謝しつつ、頼りすぎないバランスが大切です。きょうだい児にも、自分の時間、自分の友達、自分の楽しみがあるべきです。「いつも助けてくれているけど、○○ちゃんも遊びに行っておいで。お兄ちゃんのことはお母さんが見ているから大丈夫だよ」と伝えましょう。
実践5:きょうだい児の「好ましい行動」も見逃さず褒める
発達障害のある子の小さな成長に注目するあまり、きょうだい児の頑張りが「当たり前」になっていませんか?テストで良い点を取った、友達と仲良くできた、自分で起きられた――きょうだい児の「好ましい行動」にも、同じように具体的に褒めることが大切です。
「100点すごいね」だけでなく、「毎日コツコツ勉強してたもんね。努力を見てたよ」と、プロセスを褒める。この「見ているよ」というメッセージが、きょうだい児にとって何よりの安心になります。
親自身のケアも忘れずに
きょうだい児のケアを考えると、「あの子にも申し訳ない」「自分はダメな親だ」と自分を責めてしまう方がいます。でも、完璧な親はいません。発達障害のある子の対応に精一杯で、きょうだい児に十分な時間を取れないことは、あなたの責任ではありません。
育児疲れを感じたら、自分自身のケアを優先してください。親が疲弊していると、どの子にも十分な関わりができなくなります。ペアトレ講座に参加することは、スキルを学ぶだけでなく、同じ悩みを持つ親との出会いにもなり、それ自体が大きな支えになります。
きょうだい児の支援リソース
- きょうだい児の会・しろくまの会など:同じ立場のきょうだい同士の交流の場。子ども自身が「自分だけじゃない」と感じられる
- スクールカウンセラー:学校での悩みの相談相手。親に言えないことも話せる場合がある
- 地域の発達支援センター:きょうだいの相談にも対応してくれるケースがある
- ペアトレ講座:親がきょうだい全員への関わり方を学ぶ場
- 書籍:きょうだい児向けの絵本や、保護者向けの書籍も参考になる
よくある質問(Q&A)
Q1. きょうだい児に障害のことをいつ、どう説明すればいいですか?
A. 年齢に応じた伝え方が大切です。幼児期は「○○ちゃんは△△がちょっと苦手なんだよ」程度でOK。小学校中学年以降は、「発達障害」という言葉を使って説明しても良いでしょう。大切なのは、一度で完璧に伝えようとしないこと。子どもの理解度に合わせて、繰り返し伝えていくのがベストです。「いつでも聞いていいよ」という姿勢を見せましょう。
Q2. きょうだい児が「自分も障害があるのでは」と不安がっています。どうすればいいですか?
A. まず「心配なんだね」と気持ちを受け止めてください。その上で、「障害があるかどうかは、お医者さんが調べて教えてくれるものだよ。心配なら一緒に相談に行こうか」と、具体的な行動の選択肢を示しましょう。不安をそのままにせず、「確認する方法がある」と伝えることが安心につながります。グレーゾーンについての記事も参考になるかもしれません。
Q3. きょうだい児が兄弟の癇癪にすごく怖がっています。どうケアすればいいですか?
A. 癇癪の場面では、きょうだい児にも安全な避難場所を用意しましょう。「お兄ちゃんがパニックになったら、自分の部屋に行っていいよ」と事前に伝えておきます。癇癪が収まった後には、「怖かったね。もう大丈夫だよ」と声をかけてあげてください。環境調整で、きょうだい児が安心できるスペースを確保することも大切です。
Q4. きょうだい児も一緒にペアトレ講座に参加できますか?
A. ペアトレは基本的に保護者向けのプログラムですが、きょうだい児向けのプログラムを実施している団体もあります。また、SSTなど子ども向けのグループプログラムに、きょうだい児が参加できるケースもあります。講座の探し方ガイドを参考に、お住まいの地域で利用できるプログラムを調べてみてください。
ペアトレ講座は「家族全体」の支援になる
ペアトレは発達障害のある子どもだけのための講座ではありません。褒め方、注目の仕方、環境調整は、きょうだい児を含む家族全員との関わり方に使えるスキルです。
講座で「きょうだいへの関わり方も悩んでいる」と相談する方は多く、グループの中で同じ悩みを共有できることも大きな支えになります。受講の流れを確認して、ぜひ一歩を踏み出してみてください。
まとめ
きょうだい児は、発達障害のある兄弟姉妹の陰で、声にならないSOSを出していることがあります。「手がかからない良い子」ほど、実は寂しさを抱えています。
ペアトレで学ぶ「注目して褒める」「CCQで気持ちを受け止める」「スペシャルタイムをつくる」「行動の3分類で背景を伝える」は、きょうだい児の心を守るための大切なスキルです。
発達障害のある子もきょうだい児も、どちらも大切な家族。ペアトレは、その両方を支える力になります。完璧を目指す必要はありません。今日からできる小さな一歩――たとえば5分の「スペシャルタイム」から始めてみてください。

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