ペアレント・トレーニング(ペアトレ)について調べると、「精研式」「まめの木式」「奈良方式」という3つの名前が、まるで別々のプログラムであるかのように並べて紹介されているのをよく見かけます。当サイトも以前はそう書いていました。
しかし、一次資料に当たって確かめたところ、これらは1つのプログラムを指す3つの呼び名でした。この記事は、その確認の過程を出典つきでそのまま残したものです。
結論
- 精研式とまめの木式は同じプログラムです。まめの木式は精研式の短縮版でも、簡略化版でも、発展版でもありません
- まめの木クリニックが公開している現行プログラムの回数は全10回です(同院公式)。厚労省ガイドブックも「精研式プログラムを全 10 回 1 クールで行っている」と記載しています
- まめの木クリニックの所在地は東京都江戸川区です(埼玉県ではありません)
- 厚生労働省のガイドブックは、精研・まめの木・奈良式をひとまとまりの系統として扱っています
- ただし、まめの木クリニック自身は自院のプログラムを「まめの木式」と案内しています。名前が違うことと、別のプログラムであることは、別の話です
1. 厚労省ガイドブックは「3つの系統」に分けている
厚生労働省のペアレント・トレーニング実践ガイドブック(令和元年度障害者総合福祉推進事業/作成:一般社団法人日本発達障害ネットワーク JDDnet 事業委員会、2020年3月発行)には、「表3 3つのペアレント・トレーニングのプログラムの特徴」という比較表があります。そこに挙げられている3つは次のとおりです(「成り立ち」欄は同表の記述を当サイトが要約したものです)。
| 系統 | 成り立ち | 回数 |
|---|---|---|
| 精研・まめの木・奈良式 | 米国のUCLAで開発されたADHDのある子どもの保護者向けプログラムを基礎とする | 10回程度 |
| 肥前式 | 国立肥前療養所の行動療法の実践に基づく | 10回程度 |
| 鳥取大学式 | 応用行動分析(ABA)に基づく | 6〜8回程度 |
注目したいのは、「精研・まめの木・奈良式」が最初から1つの欄にまとめられている点です。3つを別々の方式として並べる分類は、この国の標準的な整理には存在しません。また、この表3 の分類に「短縮版」という区分はありません(同書の別の箇所には、自治体例として「奈良方式の短縮版」の記載があります)。
2. まめの木クリニックは東京都江戸川区にあり、実施しているのは精研式
同じガイドブックには「医療機関例」としてまめの木クリニックが取り上げられており、次のように記載されています。
まめの木クリニックは東京都江戸川区所在の、民間の児童精神科クリニックである。(中略)親のグループによるプログラムとして、精研式のペアレント・トレーニングと、自閉症スペクトラム(ASD)の子どもの親を対象とするアーリーバード・プログラム(未就学児)、アーリーバード・プラス・プログラム(低学年まで)を実施している。
④プログラム内容:精研式プログラムを全10回1クールで行っている。1回につき90分(平日はAM10:30〜12:00、土曜日は午後開催もあり)、概ね隔週で実施する。
厚生労働省「ペアレント・トレーニング実践ガイドブック」より
クリニックの当院概要でも、所在地は「〒133-0052 東京都江戸川区東小岩5-20-5」と公開されています。JR小岩駅が最寄りです。
3. ただし、クリニック自身は「まめの木式」と呼んでいる
ここが混乱の元になっている点です。まめの木クリニックのペアレント・トレーニングのページは、見出しが「まめの木式ペアレント・トレーニングプログラムとは」で始まります。そして同じページに、こう明記されています。
プログラム:全10回のプログラムです。
(このプログラムはカリフォルニア大学ロサンゼルス校でシンシア・ウィッタム氏が長年にわたって行っているプログラムを日本の現状にあわせて調整したものです。)
まめの木クリニック 発達臨床研究所 公式サイトより
つまり、「まめの木式」という呼び名は実在します。しかしそれは「精研式とは違うプログラム」という意味ではなく、実施している場所の名前が付いた呼び方です。回数も全10回で、精研式と一致しています。
掲載されている各回のテーマは次のとおりです。
| 回 | テーマ |
|---|---|
| 第1回 | オリエンテーション/子どもの行動を3つに分ける |
| 第2回 | 好ましい行動を増やす(肯定的注目の与え方) |
| 第3回 | 好ましくない行動を減らす①(上手な無視のしかた) |
| 第4回 | 好ましくない行動を減らす②(無視とほめるの組み合わせ) |
| 第5回 | 効果的な指示の出し方① |
| 第6回 | 効果的な指示の出し方② |
| 第7回 | よりよい行動チャート |
| 第8回 | 制限を設ける(警告とペナルティ) |
| 第9回 | 学校との連携 |
| 第10回 | まとめ |
この並びは、厚労省ガイドブックが載せている精研式のセッション表と10回とも一致します(同書は「第7回 よりよい行動チャート(BBC)」「第8回 制限を設ける(警告とペナルティ)」「第9回 学校・園との連携」「第10回 まとめ」と記載)。表記の細部(「仕方/しかた」「学校・園との連携/学校との連携」など)は違いますが、回の並びは同じです。
4. 共通の源流 — シンシア・ウィッタム氏と上林靖子先生
精研式とまめの木式が同じである理由は、たどっていくと人と本に行き着きます。
- 厚労省ガイドブックは、精研・まめの木・奈良式の成り立ちを「米国のUCLAで開発されたADHDのある子どもの保護者向けのプログラムを基礎としており」と説明しています
- まめの木クリニックは、自院のプログラムを「UCLAでシンシア・ウィッタム氏が長年にわたって行っているプログラムを日本の現状にあわせて調整したもの」と説明しています
- 厚労省ガイドブックの参考図書一覧には、逐語で「シンシア・ウイッタム著:上林靖子・中田洋二郎・井澗知美他訳,読んで学べるペアレント・トレーニング,明石書店,2002.」と記載されています
- 厚労省ガイドブックが、精研・まめの木・奈良式の「主な参考図書」として挙げているのが上林靖子、北道子、河内美恵他(2009)発達障害のペアレント・トレーニング実践マニュアル、中央法規です(同書の表記のまま)
- そしてまめの木クリニックの理事長は上林靖子先生です(同院サイトの理事長あいさつに署名あり)
整理すると、UCLAのプログラムの訳書と実践マニュアルに名前が載っている上林靖子先生が、いまはまめの木クリニックの理事長を務めている——という流れになります。呼び名が変わったのは、実施している場所が変わったからです。
※上林先生がUCLAでどのように学ばれたかといった具体的な経緯までは、当サイトでは一次資料を確認できていません。ここで確認できたのは「訳書の訳者であること」「実践マニュアルの著者であること」「まめの木クリニックの理事長であること」までです。
5. 奈良方式の位置づけ
奈良方式も、同じくUCLAのプログラムを基礎とする同じ系統です。厚労省ガイドブックが精研・まめの木と同じ欄に置いているのはそのためです。参考図書として岩坂英巳他(2012)『困っている子をほめて育てるペアレント・トレーニングガイドブック』じほうが挙げられています。
回数は表3 に「10回程度」とあり、精研・まめの木と同じ欄に置かれています。各回の構成や重点については、当サイトでは一次資料を確認できていません。
6. 「短縮版」について
回数を減らした形で実施される例はあります。厚労省ガイドブックの自治体例(宮城県気仙沼市・p.30)には、逐語で「奈良方式の短縮版ペアレント・トレーニング(以下『ひまわり教室』と表記)を 2014 年度から開始し,現在は年3クール実施している」という記載があります。
ただし、同書が方式を整理している表3 に「短縮版」という区分はありません。短縮版を「選べる方式のひとつ」として並べるのは、この整理に合いません。当サイトも以前は短縮版を独立した方式として比較表に並べていましたが、その扱いをやめました。
※「短縮版精研式」が何回で実施されているか、短縮版が推奨されているかどうかについては、当サイトでは一次資料を確認できていません。
7. なぜ混乱するのか
この分野の情報は、断片としては大量にあるのに、断片どうしの関係を正しく結んだ資料がほとんどありません。そのため、次のような取り違えが起こりやすくなっています。
- 呼び名の実在を、別物の証拠と取り違える — 「まめの木式」という名前は実在するが、別のプログラムという意味ではない
- 別のプログラムの数字を持ち込む — まめの木クリニックのペアレント・トレーニングは全10回で、同院サイトにある「6回コース」はティーチャーズ・トレーニング プログラム(TTP)のほう
- 実施地を所在地と取り違える — 研修が行われている場所と、クリニックの所在地(東京都江戸川区東小岩)は別のもの
いずれも「元になった事実は実在する」のが厄介な点です。読んでも不自然に見えないため、間違いに気づけません。確かめる方法は結局ひとつで、実施元の公式サイトと、行政の一次資料を実際に開くことです。この記事もそれをしただけです。
出典
- 厚生労働省「ペアレント・トレーニング実践ガイドブック」(令和元年度障害者総合福祉推進事業/作成:一般社団法人日本発達障害ネットワーク JDDnet 事業委員会/協力:日本ペアレント・トレーニング研究会/2020年3月31日発行)— 「表3 3つのペアレント・トレーニングのプログラムの特徴」(p.23)、「医療機関例 ④まめの木クリニック」(p.32〜33)、「参考図書一覧」
- まめの木クリニック 発達臨床研究所「ペアレント・トレーニング」(全10回のセッション構成、UCLA・シンシア・ウィッタム氏との関係)
- 同「当院概要」(所在地、理事長・上林靖子)
- 同「研修案内」(ペアレント・トレーニング リーダー養成基礎研修)
- シンシア・ウイッタム著/上林靖子・中田洋二郎・井澗知美他訳(2002)『読んで学べるペアレント・トレーニング』明石書店(厚労省ガイドブックの参考図書一覧の表記のまま)
- 上林靖子、北道子、河内美恵他(2009)発達障害のペアレント・トレーニング実践マニュアル、中央法規(厚労省ガイドブックの表記のまま)
- 岩坂英巳他(2012)『困っている子をほめて育てるペアレント・トレーニングガイドブック — 活用のポイントと実践例』じほう
この記事は、まめの木クリニック発達臨床研究所の専門家の方から当サイトの誤記についてご指摘をいただいたことをきっかけに、一次資料を確認し直して作成しました。記して御礼申し上げます。なお、記載内容の責任はすべて当サイトにあります。事実誤認にお気づきの点がありましたら、お問い合わせよりご指摘いただけますと幸いです。