「親子関係形成支援事業」は、児童福祉法に定められた市町村の事業の名前です。自治体の講座案内に「親子関係形成支援事業 ペアレント・トレーニング」と書かれているのを見て、この言葉にたどり着いた方が多いと思います。
この記事では、法律の条文とこども家庭庁の実施要綱という一次資料だけを根拠に、この事業が何を定めているのか、そしてペアレント・トレーニング(ペアトレ)とどういう関係にあるのかを整理します。効果や向き不向きについては書きません(この事業の要綱がそれを定めていないためです)。
1. 法律上の位置づけ — 児童福祉法 第6条の3 第21項
親子関係形成支援事業は、令和4年(2022年)の児童福祉法改正(令和4年法律第66号)で新設され、児童福祉法 第6条の3 第21項に定義が置かれています。条文はこう書いています。
この法律で、親子関係形成支援事業とは、内閣府令で定めるところにより、親子間における適切な関係性の構築を目的として、児童及びその保護者に対し、当該児童の心身の発達の状況等に応じた情報の提供、相談及び助言その他の必要な支援を行う事業をいう。
児童福祉法(昭和22年法律第164号)第6条の3 第21項/e-Gov 法令検索
ここで押さえておきたいのは、法律の条文には「ペアレント・トレーニング」という言葉が一度も出てこないということです。条文が定めているのは「親子間における適切な関係性の構築を目的として」「情報の提供、相談及び助言その他の必要な支援を行う」という枠組みまでで、その中身をどう組み立てるかは条文の外にあります。ペアトレが登場するのは、次に見る実施要綱です。
なお同じ第6条の3では、第19項に子育て世帯訪問支援事業、第20項に児童育成支援拠点事業、第22項に妊婦等包括相談支援事業が並んでいます。親子関係形成支援事業は、こうした家庭支援事業のひとつとして置かれています。
2. こども家庭庁の実施要綱が定めていること
実際の運用を定めているのは、こども家庭庁成育局長通知の「親子関係形成支援事業実施要綱」です。この記事はこ成環第106号(令和6年3月30日)/一部改正 こ成環第164号(令和7年4月1日)/一部改正 こ成環第238号(令和8年4月8日)の版を読んでいます。
事業の目的
児童との関わり方や子育てに悩みや不安を抱えている保護者及びその児童に対し、講義やグループワーク、ロールプレイ等を通じて、児童の心身の発達の状況等に応じた情報の提供、相談及び助言を実施するとともに、同じ悩みや不安を抱える保護者同士が相互に悩みや不安を相談・共有し、情報の交換ができる場を設ける等その他の必要な支援を行うことにより、親子間における適切な関係性の構築を図ることを目的とする。
実施要綱 1 事業の目的
実施主体は市町村
実施主体は、市町村(特別区及び一部事務組合を含む。以下同じ)とする。/ただし、市町村が適切と認めた者に委託等を行うことができるものとする。
実施要綱 2 実施主体
つまり窓口は市町村です。都道府県や国が直接講座を開くしくみではありません。市町村が自前で開くこともあれば、市町村が認めた事業者に委託して開くこともあります。
事業の内容 — ここで「ペアレント・トレーニング」が出てくる
児童との関わり方や子育てに悩み・不安を抱えた保護者が、親子の関係性や発達に応じた児童との関わり方等の知識や方法を身につけるため、当該保護者に対して、講義、グループワーク、個別のロールプレイ等を内容としたペアレント・トレーニング等を実施するとともに、同じ悩みや不安を抱える保護者同士が相互に悩みや不安を相談・共有し、情報の交換ができる場を設けることで、健全な親子関係の形成に向けた支援を行う。
実施要綱 3 事業の内容
「ペアレント・トレーニング等」と書かれている点が要点です。要綱はペアトレを事業の中身として名指ししていますが、ペアトレだけに限定してもいません。
対象者
要綱 4 は、支援対象を「親子の関係性や児童の関わり方等に不安を抱えている児童を養育する家庭」としたうえで、次の3つを挙げています。
- 保護者に監護させることが不適当であると認められる児童及びその保護者若しくはそれに該当するおそれのある児童及び保護者
- 保護者の養育を支援することが特に必要と認められる児童及び保護者若しくはそれに該当するおそれのある児童及び保護者
- 乳幼児健康診査や乳児家庭全戸訪問事業の実施、学校等関係機関からの情報提供、その他により市町村が当該支援を必要と認める児童及びその保護者
3つめが幅の広い受け皿になっています。診断の有無は要件として書かれていません。実際に自分が対象になるかどうかは、お住まいの市町村の窓口が判断します。
プログラムの内容として考慮する4項目
要綱 5(1)は、プログラムの内容を「以下の内容を考慮しつつ、地域の実情に応じて設定すること」として、4つを挙げています。
- 児童の行動の理解と要因の把握及び対応
- 児童の発達・成長に応じた関係性や関わり
- 参加者同士によるピアサポート
- セルフケアや児童への関わり方の振り返り
回数・時間・定員
要綱 5 は運営の目安も定めています。
| 項目 | 要綱の記述 |
|---|---|
| 回数 | 概ね5〜8回を目安に、4回以上の連続講座として実施すること(5(7)) |
| 1回の長さ | 各回 90分〜120分程度(5(7)) |
| 定員 | 10名程度を目安に、原則としてグループで実施すること(5(6)) |
| 連続講座の意味 | 参加者が基本的には同一で、同じ参加者が続けて受講するプログラム。学んだことを家庭で実践し、後に続く回で振り返る機会を設ける(5(7)) |
| 託児 | 未就園児のいる家庭を対象とする場合、別室にて保育士等による預かり保育の実施に努めること(5(8)) |
実施者に求められること
要綱 5(2)〜(5) は実施者について、「児童に関わる業務に従事していた経験や、市町村が認める研修の受講歴又は資格を有する者であって、適切にプログラムを実施できると市町村が認めたもの」と定めています。国家資格を名指しで求める書き方にはなっておらず、認定するのは市町村です。
あわせて、「対象者像として精神疾患、発達障害等のケースも考えられることから、基礎知識と必要な配慮をもって接すること」(5(3))、実施者のほかに「利用者の様子の観察や記録等を行う者を配置することが望ましい」(5(5))とも書かれています。
3. ペアトレとの関係 — 「事業」と「プログラム」は別の層の話
ここが混同されやすいところです。一次資料に沿って整理すると、次のようになります。
| 親子関係形成支援事業 | ペアレント・トレーニング | |
|---|---|---|
| 何か | 児童福祉法に基づく市町村の事業(制度の枠) | 保護者が子どもへの関わり方を学ぶプログラム(中身) |
| 根拠 | 児童福祉法 第6条の3 第21項/こども家庭庁の実施要綱 | 各方式の開発元・実施元。国の統一規格はない |
| 関係 | 要綱が事業の内容として「ペアレント・トレーニング等」を挙げている | この事業以外の枠組み(医療機関、発達障害者支援センター等)でも実施されている |
言い換えると、この事業で行われる講座の多くはペアトレですが、ペアトレのすべてがこの事業というわけではありません。自治体の案内に「親子関係形成支援事業」と冠がついていたら、それは財源と根拠法の名前だと考えるとわかりやすいです。中身がどの方式なのかは、講座ごとの案内を見る必要があります(→ ペアトレの方式を比較)。
4. どのくらいの市町村が実施しているか
こども家庭庁が公表している「【親子関係形成支援事業】取組見込等状況調査 公表資料」に、都道府県別の数字があります。これは実績ではなく「実施見込」の調査である点に注意してください。
| 調査 | 実施見込の市区町村数 |
|---|---|
| 令和6年度(令和6年6月 実施見込み調査) | 173 市区町村 |
| 令和7年度(令和7年6月 実施見込み調査) | 336 市区町村(163市区町村の増) |
全国の市町村は1,741なので、令和7年度の見込みでもおよそ5団体に1団体という段階です。お住まいの市町村で実施されていないことは珍しくありません。
都道府県別の実施見込(令和7年度取組状況調査)
同じ公表資料の都道府県別内訳です。「市町村数」は各都道府県の総市町村数、「実施見込」はそのうち令和7年度に実施を見込む市区町村数です。
| 都道府県 | 市町村数 | 実施見込 | 実施見込率 |
|---|---|---|---|
| 北海道 | 179 | 7 | 3.9% |
| 青森県 | 40 | 8 | 20.0% |
| 岩手県 | 33 | 5 | 15.2% |
| 宮城県 | 35 | 3 | 8.6% |
| 秋田県 | 25 | 3 | 12.0% |
| 山形県 | 35 | 9 | 25.7% |
| 福島県 | 59 | 10 | 16.9% |
| 茨城県 | 44 | 11 | 25.0% |
| 栃木県 | 25 | 6 | 24.0% |
| 群馬県 | 35 | 4 | 11.4% |
| 埼玉県 | 63 | 14 | 22.2% |
| 千葉県 | 54 | 14 | 25.9% |
| 東京都 | 62 | 27 | 43.5% |
| 神奈川県 | 33 | 13 | 39.4% |
| 新潟県 | 30 | 8 | 26.7% |
| 富山県 | 15 | 2 | 13.3% |
| 石川県 | 19 | 4 | 21.1% |
| 福井県 | 17 | 5 | 29.4% |
| 山梨県 | 27 | 5 | 18.5% |
| 長野県 | 77 | 17 | 22.1% |
| 岐阜県 | 42 | 10 | 23.8% |
| 静岡県 | 35 | 11 | 31.4% |
| 愛知県 | 54 | 17 | 31.5% |
| 三重県 | 29 | 3 | 10.3% |
| 滋賀県 | 19 | 5 | 26.3% |
| 京都府 | 26 | 11 | 42.3% |
| 大阪府 | 43 | 20 | 46.5% |
| 兵庫県 | 41 | 19 | 46.3% |
| 奈良県 | 39 | 7 | 17.9% |
| 和歌山県 | 30 | 5 | 16.7% |
| 鳥取県 | 19 | 6 | 31.6% |
| 島根県 | 19 | 1 | 5.3% |
| 岡山県 | 27 | 2 | 7.4% |
| 広島県 | 23 | 6 | 26.1% |
| 山口県 | 19 | 3 | 15.8% |
| 徳島県 | 24 | 3 | 12.5% |
| 香川県 | 17 | 2 | 11.8% |
| 愛媛県 | 20 | 1 | 5.0% |
| 高知県 | 34 | 1 | 2.9% |
| 福岡県 | 60 | 9 | 15.0% |
| 佐賀県 | 20 | 0 | 0.0% |
| 長崎県 | 21 | 0 | 0.0% |
| 熊本県 | 45 | 3 | 6.7% |
| 大分県 | 18 | 3 | 16.7% |
| 宮崎県 | 26 | 4 | 15.4% |
| 鹿児島県 | 43 | 6 | 14.0% |
| 沖縄県 | 41 | 3 | 7.3% |
| 全国 | 1,741 | 336 | 19.3% |
出典:こども家庭庁「親子関係形成支援事業について」に掲載の【親子関係形成支援事業】取組見込等状況調査 公表資料(令和8年1月26日差替え)。全国計は当サイトが47都道府県の数値を合計して確認しました(市町村数1,741・実施見込336で公表資料の記載と一致)。
5. この事業として実施された講座(当サイト掲載分)
当サイトが収集した講座のうち、案内に「親子関係形成支援事業」と明記されているものです。各行の出典は自治体の公式ページです。募集が終わっているものも含みます。最新の募集はイベント一覧で確認してください。
| 自治体 | 講座 | 実施主体(案内の記載) | 出典 |
|---|---|---|---|
| 青森県三沢市 | 親子関係形成支援事業 ペアレント・トレーニング | 三沢市こども未来課(三沢キッズセンターそらいえ内) | 三沢市 |
| 福島県喜多方市 | ペアレント・トレーニング(親子関係形成支援事業) | 喜多方市保健福祉部こども課 | 喜多方市の案内PDF(当サイト収集時のURL)は現在リンク切れ。同市が本事業を実施していることは、こども家庭庁掲載の喜多方市「直営で親子関係形成支援事業を行うメリット」(PDF)で確認できます |
| 福島県石川町 | 親子関係形成支援事業 ペアレント・トレーニング講座(全6回) | 石川町 保健福祉課こども家庭係 | 石川町 |
| 山形県大石田町 | こどものためのほめ方講座(親子関係形成支援事業) | 大石田町 | 大石田町 |
| 愛知県みよし市 | ペアレント・トレーニング(親子が整う褒め活プログラム) | みよし市 こども未来部 こども相談課 | みよし市 |
| 香川県三豊市 | 親子関係形成支援事業 ペアレンティングプログラム 実践編 | 三豊市 | 三豊市 |
三豊市の例のように、この事業の講座がペアトレという名前で行われるとは限りません(「ペアレンティングプログラム」「ほめ方講座」「褒め活プログラム」など)。市町村のページで探すときは、事業名とプログラム名の両方で当たってみてください。
6. こども家庭庁が公開している自治体の取組事例
こども家庭庁の事業ページには、自治体自身が書いた取組事例のPDFが4件掲載されています(当サイトの収集分とは別に、国が公開しているものです)。
- 三重県松阪市「親子関係形成支援事業の取り組み」
- 福島県喜多方市「直営で親子関係形成支援事業を行うメリット」
- 岐阜県岐阜市「岐阜市の親子関係形成支援事業の取り組みについて〜直営で行うことのメリット〜」
- 長野県上田市「脱!孤育て 保護者を支える上田市のとりくみ」
いずれもこども家庭庁「親子関係形成支援事業について」から読めます。同ページには「親子関係形成支援事業FAQ」も置かれており、自治体側の運用の疑問はそちらが一次資料になります。
7. お住まいの市町村で探すには
実施主体は市町村なので、窓口も市町村です。要綱が想定している流れをふまえると、次の当たり方になります。
- 市町村のこども・子育て担当課に聞く。課の名前は自治体によって違います(上の表でも「こども未来課」「こども課」「こども相談課」「保健福祉課こども家庭係」とばらばらです)
- 「親子関係形成支援事業」という事業名で市町村サイト内を検索する。講座名がペアトレでなくても、事業名は共通です
- こども家庭センターに聞く。要綱 5(9)⑤ は、さらなる支援が必要な場合にこども家庭センター等の関係機関と連携するよう定めています
- 実施していない場合でも、ほかの枠組みで行われているペアトレがあります。この事業はペアトレの入口のひとつであって、唯一の入口ではありません
この記事で確認できていないこと
- 令和7年度の「実績」。こども家庭庁が公表しているのは実施見込の調査であり、実際に何団体が実施したかの確定値は確認できていません
- 個々の市町村が現在も実施しているか。上の表は当サイトが収集した時点の案内に基づくもので、各自治体の最新の実施状況は自治体の公式ページで確認してください
- この事業の講座で採用されている方式の内訳。要綱は「ペアレント・トレーニング等」としか書いておらず、どの方式が何件かを示す一次資料は見つけられませんでした
- 内閣府令の該当条項。条文は「内閣府令で定めるところにより」としていますが、当サイトは該当する内閣府令の条項までは当たれていません
出典
- 児童福祉法(昭和22年法律第164号)第6条の3 第21項 — e-Gov 法令検索
- こども家庭庁「親子関係形成支援事業実施要綱」こ成環第106号(令和6年3月30日)/一部改正 こ成環第164号(令和7年4月1日)/一部改正 こ成環第238号(令和8年4月8日)・こども家庭庁成育局長通知(PDF)
- こども家庭庁「【親子関係形成支援事業】取組見込等状況調査 公表資料」(PDF・令和8年1月26日差替え)
- こども家庭庁「親子関係形成支援事業について」(実施要綱・予算概要・取組見込等状況調査・FAQ・自治体実施事例の掲載元)
- 各自治体の講座案内(上の表の「出典」欄)
この記事は制度の説明であり、特定のプログラムの効果を保証するものではありません。お子さんの状態についての判断は、かかりつけの医療機関や市町村の相談窓口にご相談ください。