実践ガイド

現状把握表の書き方と記入例 — ペアレント・プログラム(ペアプロ)の自分編・子ども編

ペアレント・プログラム(ペアプロ)を受けると、第1回から最終回まで「現状把握表」を書き続けます。このページでは、現状把握表の書き方の手順と、当サイトで作った記入例(自分編・子ども編)、そしてよくある書き方の失敗をまとめました。受講中の保護者の方にも、講座を進める実施者の方にも使っていただけるように書いています。

ペアレント・プログラムは、子どもや自分の「行動」に目を向けて、保護者が子育てを前向きにとらえられるようにする、全6回が基本のグループ・プログラムです。どんなプログラムか、ペアレント・トレーニング(ペアトレ)とどう違うかは「ペアレント・プログラムとは?」で解説しています。

このページの説明は、厚生労働省のサイトに掲載されている「ペアレント・プログラム マニュアル 要旨」[1]と、国立障害者リハビリテーションセンターのサイトに掲載されている「ペアレント・プログラム事業化マニュアル」[2]・同ダイジェスト版[3]に沿っています。講座によって進め方やシートの形が少しずつ違うことがあるので、受講中の方は講座で配られたシートと説明を優先してください。

現状把握表とは

現状把握表は、自分(保護者)と子どもがふだんしている行動を、3つの欄に分けて書き出す表です。マニュアル要旨は、ペアプロの基本を「行動で考える」「(叱るのではなく)誉めて対応する」「孤立している母親に仲間を見つける」の3点にまとめ、そのうちの「行動で考える」を支える枠組みとして現状把握表を置いています[1]。困ったことだけを見て叱っていた状態から、行動を客観的にとらえられるようにするための道具です。

表は「自分編」と「子ども編」の2枚で、どちらも同じ3つの欄に書きます。マニュアル要旨の第1回の進行例では、3つの欄が次のように説明されています[1]。

欄どんな行動を書くか
いいところ普段できているところ
努力しているところ工夫をすればできるところ
困ったところすぐには解決できないところ

ペアトレで習う「好ましい行動・好ましくない行動・許しがたい行動」の行動の3分類と見た目は似ていますが、別のものです。現状把握表の3つの欄は、行動の良し悪しではなく、いまどのくらいできているかで分けます。

全6回のどこで使うか

現状把握表は第1回で書き始め、毎回の宿題で書き足し、毎回、宿題の発表のあとに保護者どうしのペアで見せ合って直していきます[1]。各回のテーマと、表で何をするかは次のとおりです(テーマはマニュアル要旨の表記)。

  • 第1回「現状把握表を書く!」(自分のことについて書いてみよう!):書き方の説明を聞き、自分編・子ども編を書き始める。宿題は各欄3つずつ
  • 第2回「行動で書く!」:書いた行動を、ペアで「行動で書けているか」確かめて直す。60〜70%できていることは「いいところ」に移す。宿題は各欄10個ずつ
  • 第3回「同じカテゴリーをみつける!」:書いた行動を、家事・育児・食事・睡眠のような種類(カテゴリー)に分ける
  • 第4回「ギリギリセーフ!をみつける!」:「困ったところ」の中にある「ここまではできている」を見つける
  • 第5回「ギリギリセーフ!をきわめる!」:困った行動とギリギリセーフが起きやすい時間帯・場所・相手・課題を探す
  • 第6回「ペアプロでみつけたことを確認する!」:第1〜2回の表と第6回の表を見比べて、6回で見つけたことを確かめる

つまり、第1〜2回で行動で書けた表をつくっておくと、第3回以降の作業がそのまま進みます。最初の2回の書き方がいちばん大事です。

書き方の手順

自分編から書く

第1回のテーマは「自分のことについて書いてみよう!」で、まず保護者自身のことを10分ほどで書きます[1]。子どもより先に自分を書くのがペアプロの特徴です。何を書けばいいか思いつかないときは、今日一日にしたことを朝から順に思い出すと書き出しやすくなります(マニュアルでも、書き出せない参加者には「今日一日のことでもよい」と声をかけるとされています)。

子ども編を書く

次に子どもについて書きます。きょうだいがいる場合は、講座の対象になっている子ども1人に絞ります。双子や年の近いきょうだいなら、両方つくってもかまわないとされています[1]。

「〜する」で終わる文にする

現状把握表は行動を書く表です。行動なので、基本は形容詞・形容動詞ではなく動詞で書きます[1]。「やさしい」「几帳面」のような言葉は、その人の性格や評価であって、行動ではありません。見ていた人が同じ場面を思い浮かべられるかを目安に、「具体的」「簡潔」「手短」に書きます[1]。

3つの欄に振り分ける

書いた行動を「いいところ」「努力しているところ」「困ったところ」に入れます。迷ったら次の基準で考えます。

  • いいところ:特別なことでなくてよい。毎回でなくても、60〜70%できていれば「いいところ」に入れる[1]
  • 努力しているところ:気をつけたり工夫したりすれば、できていること
  • 困ったところ:いまの時点では、すぐには変えられないこと

宿題で数を増やす

マニュアル要旨の進行例では、第1回の宿題が自分と子どもについて各欄3つずつ、第2回の宿題が各欄10個ずつです[1]。最初から完璧に書く必要はありません。宿題ができていなくても気にしすぎなくてよく、講座の時間中に書けばよいことも、マニュアルで参加者に伝えることになっています[1]。

記入例(自分編)

※ここからの記入例は、当サイトが架空の家庭(年中の子どもと、その保護者)を想定して作ったものです。マニュアルに載っている例文は使っていません。

いいところ(普段できているところ)

  • 平日は6時半に起きる
  • 朝ごはんにみそ汁をつくる
  • 保育園の連絡帳に毎日ひとこと書く
  • 寝る前に子どもと絵本を1冊読む

努力しているところ(工夫をすればできるところ)

  • 子どもに話しかけられたら、スマホを置いて顔を見る
  • 日曜の午後に、作り置きのおかずを2品つくる
  • 腹が立ったら、言い返す前に台所で水を1杯飲む

困ったところ(すぐには解決できないところ)

  • 子どもが寝たあと、ベッドでスマホを1時間以上見る
  • 朝の支度中に「早くして」と何度も大きな声で言う
  • 保育園の提出書類を、締切の前日までかばんに入れたままにする

「平日は6時半に起きる」「みそ汁をつくる」は、書くのをためらうほど当たり前のことに見えるかもしれません。でも、それが「普段できているところ」です。マニュアル要旨は、「いいところ」を書くときに「できて当たり前」「普通」という言葉を使わないように呼びかけています。そう考えると、保護者自身も子どもも追い詰めてしまうからです[1]。

記入例(子ども編)

いいところ(普段できているところ)

  • 「着がえよう」と声をかけると、自分でパジャマを脱ぐ
  • 夕食でごはんを茶碗1杯食べる
  • 物を受け取るときに「ありがとう」と言う
  • 保育園の友達の名前を呼んで「あそぼう」と誘う

努力しているところ(工夫をすればできるところ)

  • 苦手なピーマンを、1口だけ口に入れる
  • 寝る前に、親と一緒にトイレに行く
  • 弟に「かして」と言われると、少し待ってからおもちゃを渡す

困ったところ(すぐには解決できないところ)

  • 21時を過ぎても、テレビの前から動かない
  • 積んだブロックが崩れると、床に寝転んで大声で泣く
  • 歯みがきのとき、口を閉じて部屋の中を逃げ回る

どれも「いつ」「何をしたら」「どうする」が分かるように書いています。「寝るのが遅い」ではなく「21時を過ぎても、テレビの前から動かない」と書くと、ペアの相手にも場面が伝わりますし、第4回以降で「どこまではできているか」を探すときの手がかりにもなります。

「行動で書く」の言いかえ例

第2回「行動で書く!」では、書いた表をペアで見せ合い、行動になっていないところを直します[1]。よくある書き方と、行動に言いかえた例を並べました(言いかえ例は当サイトで作ったものです)。

もとの書き方行動で書くと
やさしい
(形容詞)
子どもが転んだら、そばに行って「痛かったね」と言う
几帳面
(形容動詞)
毎晩、翌日の着替えを枕元に出しておく
家事をがんばっている
(あいまい)
毎日、夕食のあとに食器を洗う
怒らない
(「〜しない」)
腹が立ったら、言い返す前に台所で水を1杯飲む
早起きしてお弁当をつくる
(行動が2つ)
「6時に起きる」と「お弁当をつくる」の2つに分ける
わがまま
(性格のことば・子ども)
お菓子売り場で「買って」と言い、その場に座りこむ
落ち着きがない
(あいまい・子ども)
夕食の途中で3回ほど席を立つ

マニュアル要旨では、「〜しない」は行動ではないので、しない代わりに何をするのかを書くこと、2つの行動が入っている文は2つに分けることが、第2回のポイントとして挙がっています[1]。書いたあとは、次の5つを見直すと「行動で書けているか」を確かめられます。

  • 「〜する」で終わっている(形容詞・形容動詞で終わっていない)
  • 見ていた人が同じ場面を思い浮かべられる(具体的・簡潔・手短)
  • 「〜しない」になっていない
  • 1つの文に行動が1つだけ
  • 「わがまま」「だらしない」のような性格や評価の言葉が入っていない

よくある書き方の失敗

「困ったところ」ばかり埋まる

書き始めると、困ったところはすぐ思い浮かぶのに、いいところが出てこない、ということがよくあります。マニュアル要旨は、日本の伝統的な子育てには「できないことを見つけて叱る・できていることは言葉にしない」という特徴がある、と説明しています[1]。いいところが出てこないのは、できていないからではなく、できていることを言葉にする習慣がないからかもしれません。今日一日にしたことを順に書き出して、その中から「いいところ」を拾うと書きやすくなります。

「いいところ」に特別なことを書こうとする

「いいところ」と聞くと、自信のあることや人に言って恥ずかしくないことを書きたくなります。マニュアル要旨はそれを「スペシャルいいところ=金メダル」と呼び、現状把握表の「いいところ」は普段・日常でできているところで、全然特別でなくてよいと説明しています[1]。

できている行動を「努力しているところ」に置いたままにする

毎回は無理だから、と「努力しているところ」に入れている行動の中に、実は6〜7割はできているものが混じっていることがあります。第2回では、こうした行動を「いいところ」に格上げします[1]。自分ではなかなか気づけないので、ペアの相手に見つけてもらうのがいちばんの近道です。

性格や気持ちで書いてしまう

「わがまま」「すぐ落ち込む」「怒りっぽい」は、行動ではなく性格の言葉です。マニュアル要旨では、提出された表を実施者が確かめるときの観点に「わがまま」「落ち込む」などの性格の表現が入っていないかが挙がっています[1]。そう感じたのは、どんな場面で、何をしたときかを思い出して書き直します。

子ども編にきょうだいの行動を混ぜる

子ども編は、講座の対象になっている子ども1人について書きます[1]。上の子と下の子のことが混ざると、第3回以降のカテゴリー分けやギリギリセーフ探しがしにくくなります。

第3回以降、表はこう育つ

第3回: カテゴリーに分ける

書きためた行動を、種類ごとに分けます。マニュアル要旨には、自分編なら「家事」「仕事」「健康管理」「気持ち/ストレス対処」「人付き合い」「育児」「習慣」、子ども編なら「睡眠」「食事」「着脱」「排泄」「対人社会」「言葉」「気持ちの調節」「行動の調節」といった例が挙がっていて、オリジナルの分け方をつくってもよいとされています[1]。上の子ども編の記入例を分けると、たとえば次のようになります。

  • 食事:ごはんを茶碗1杯食べる(いいところ)/ピーマンを1口だけ口に入れる(努力しているところ)
  • 対人社会:友達を「あそぼう」と誘う(いいところ)/少し待ってからおもちゃを渡す(努力しているところ)
  • 睡眠:21時を過ぎてもテレビの前から動かない(困ったところ)
  • 気持ちの調節:ブロックが崩れると床に寝転んで泣く(困ったところ)

並べてみると、「食事」や「対人社会」では頑張れていて、「睡眠」や「気持ちの調節」で困っている、というように、どこで頑張っていて、どこで困っているかのまとまりが見えてきます。

第4〜5回: 「困ったところ」からギリギリセーフを探す

「困ったところ」に書いた行動の中から、期待どおりではないけれど「ここまではできている」部分(ギリギリセーフ)を探します。例外的に、あるいは運よくできたと思っていることでもかまいません[1]。たとえば記入例の「21時を過ぎても、テレビの前から動かない」なら、

  • 録画の番組が1本終わると、自分でテレビを消す日がある
  • 祖父母の家に泊まった日は、21時に布団に入る

のようなものが見つかるかもしれません。見つかったギリギリセーフは、生活の中でできていることなので「いいところ」か「努力しているところ」に入れます[1]。第5回では、困った行動やギリギリセーフがどんな時間帯・場所・相手・課題のときに起きやすいかまで広げて探します[1]。

なお、子どもの場合は発達の段階などによって、いまはギリギリセーフが無いこともあります。そのときは無理に見つけず、「まだ無い」と分かることが大切だとされています[1]。

第6回: 最初の表と見比べる

最終回は、第1〜2回の表と第6回の表を見比べて、6回を通して見つけたことを確かめます[1]。最初の表を捨てずにとっておくと、この振り返りがしやすくなります。マニュアル要旨には、現状把握表は後々便利になるので、できる人はパソコンの表計算ソフトでつくってもよい、とも書かれています[1]。ダイジェスト版には、参加者の声として「現状把握表に書き出して頭の中が整理されて少し自分自身へのモヤモヤ感がスッキリしました」という感想が載っています[3]。

現状把握表のシート(様式)はどこにある?

受講中の方は、講座で配られるシートを使ってください。様式そのものは、厚生労働省のサイトに掲載されている「ペアレント・プログラム マニュアル 要旨」(PDF)の各回の進行例の中に、資料1(現状把握表)、資料2-1・2-2(自分編・子ども編)、資料3(カテゴリー別の子ども編)として載っています[1]。マニュアル要旨は、現状把握表についてNPO法人アスペ・エルデの会のワークブックも参考にするよう案内しています[1]。

全6回の進め方の全体像は、国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センターの「家族支援」のページから、事業化マニュアル[2]とダイジェスト版[3]を読めます。

実施者の方へ

マニュアル要旨の進行例では、現状把握表は毎回コピーを回収し、次の回の前に目を通しておくことになっています[1]。そのときの観点として、次のようなものが挙がっています[1]。

  • 行動(動詞・具体的・「〜する」表現)で書けているか
  • 「わがまま」「落ち込む」のような性格の表現が入っていないか
  • 自分編に、気分の落ち込みや虐待傾向など、育児やメンタルヘルスの面で気になる記述がないか
  • 子ども編に、発達の特性や遅れを示す記述がないか

また、夫を誉める宿題は、ひとり親の家庭がある場合に「夫や身近な大人の家族」のように言いかえることも、運営上の注意として書かれています[1]。

まとめ

  • 現状把握表は、自分編と子ども編の2枚に、「いいところ」「努力しているところ」「困ったところ」を書き分ける表
  • 書くのは行動。「〜する」で終わる、具体的・簡潔・手短な文にする
  • 「いいところ」は特別なことでなくてよい。60〜70%できていれば「いいところ」
  • 第1〜2回で行動で書けた表をつくっておくと、第3回のカテゴリー分け、第4〜5回のギリギリセーフ探しがそのまま進む

これから受講を考えている方は、「ペアレント・プログラムはどこで受けられる?」で、都道府県別の講座の一覧と、自分の市での探し方をまとめています。

参考資料

  • [1] 辻井正次「ペアレント・プログラム マニュアル 要旨」. 厚生労働省ウェブサイト掲載 PDF. 本文で使ったのは、3点セットと現状把握表の位置づけ(p.2)、各回の内容と宿題(pp.2-5)、第1回の進行例(pp.10-14)、第2回の進行例(pp.14-19)、第3回の進行例(pp.20-24)、第4回の進行例(pp.24-28)
  • [2] 『ペアレント・プログラム事業化マニュアル』(平成27年度 障害者支援状況等調査研究事業). 国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター掲載 PDF. 各回の概要(表1, pp.3-4)
  • [3] 『ペアレント・プログラム事業化マニュアル ダイジェスト版』(平成27年度 障害者支援状況等調査研究事業). 国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター掲載 PDF. 全6回の概要(p.2)、参加者の声

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