ペアレント・トレーニング(ペアトレ)のコアエレメントは6つあり、そのうち「子どもの不適切な行動への対応」は最後に置かれています。この記事は、厚生労働省のペアレント・トレーニング実践ガイドブックの記述と、同書が載せている精研式のセッション表をもとに、その中身を整理したものです。
まず前提 — 「ほめる」が定着してから
同書は、この回について最初にこう書いています。
「好ましくない行動」に対して、「計画的な無視(ほめるために待つ)」を行い、少しでも好ましい行動がみられたらほめるようにします。子どもが適切な行動ができるよう、環境調整を含めた「指示」の工夫を行うこともあります。不適切な行動への対応は、かえって子どもの不適切な行動を増やしてしまうこともあるため、「ほめる」ことをベースにしたかかわりが定着していることが前提となります。
厚生労働省「ペアレント・トレーニング実践ガイドブック」表1 コアエレメントの内容より
つまりこの回だけを先に取り出して使うものではありません。ほめ方の3原則と行動の3分類が家庭で回るようになってから、ここに進みます。
3つの分類のどこに当たるか
この回を読み違えないために、先に行動の3分類との対応を押さえておきます。同書は表1 でこう書いています。
子どもの行動を、「好ましい行動」、「好ましくない行動」、「許しがたい行動」の3つに分け、好ましい行動には「ほめる」対応を、「好ましくない行動」には、計画的な無視や環境調整、指示の工夫を行うことを学びます。ここでは、問題を行動として整理することを目的とし、それぞれの行動のタイプの対応方法はその後に順次学び、まず「好ましい行動」に注目してほめることから始めます。(「許しがたい行動」への対応としての警告・タイムアウトはコアエレメントには含まず、オプションとしています)
同書 表1 「子どもの行動の3つのタイプわけ」より
ここが要点です。この記事で扱う対応は、2つの層に分かれています。
| 行動のタイプ | 対応 | 同書での位置づけ |
|---|---|---|
| 好ましい行動 | ほめる | コアエレメント① |
| 好ましくない行動 | 計画的な無視・環境調整・指示の工夫 | コアエレメント⑥ |
| 許しがたい行動 | 警告・タイムアウト | 🔴 コアエレメントに含まない(オプション) |
「無視」と「タイムアウト」をひとまとめに語る記事を見かけますが、同書では別の層に置かれています。順番も扱いも違うので、この記事でも分けて書きます。
計画的な無視(ほめるために待つ)
同書は行動を3つに分けたうえで、「好ましくない行動」への対応をこう説明しています。
「好ましくない行動」には、計画的な無視や環境調整、指示の工夫を行うことを学びます。ここでは、問題を行動として整理することを目的とし、それぞれの行動のタイプの対応方法はその後に順次学び、まず「好ましい行動」に注目してほめることから始めます。
同書 表1 「子どもの行動の3つのタイプわけ」より
名前は「無視」ですが、子どもを無視するのではなく、その行動に注目しないという意味です。同書が載せている精研式のセッション表では、ホームワーク欄が「子どものよいところをキャッチする(無視―待つ―ほめる)」となっており、無視で終わらず、ほめるところまでが1セットであることが読み取れます。
精研式では、ここに2回あてられています。
| 回 | テーマ | ホームワーク |
|---|---|---|
| 第3回 | 好ましくない行動を減らす①(上手な無視の仕方) | 子どものよいところをキャッチする(無視―待つ―ほめる) |
| 第4回 | 好ましくない行動を減らす②(無視とほめるの組み合わせ) | 子どものよいところをキャッチする(無視―待つ―ほめる)/代わりにしてほしい行動・アクションプラン |
出典:厚生労働省「ペアレント・トレーニング実践ガイドブック」(令和元年度障害者総合福祉推進事業/作成:一般社団法人 日本発達障害ネットワーク JDDnet 事業委員会)が載せている精研式のセッション表より。
よりよい行動チャート(BBC)
同じセッション表で、第7回が「よりよい行動チャート(BBC)」です。ホームワークは「よりよい行動チャート(試みの表のチェック)」で、第8回・第9回のホームワーク欄にも「よりよい行動チャート(実践)」が続きます。1回で終わらず、後半を通して使い続ける道具として置かれています。
⚠ 同書は「BBC」が何の略かを説明していません。当サイトでも一次資料を確認できていないため、ここでは同書の表記のまま載せています。
制限を設ける(警告とペナルティ)
セッション表の第8回が「制限を設ける(警告とペナルティ)」です。同書の用語解説は、それぞれをこう説明しています。
警告:子どもが指示に従えなかった場合に、やめてほしい行動とすべき行動を伝えたうえで、従わなかった時に子どもにとってどのようにマイナスな状況があるのかを説明し、理解させること。ペアレント・トレーニングでは、「ほめるための最後のチャンス」として、警告に従えなかった時はきっぱりとタイムアウトを行うが、警告のあとに指示に従えた場合はほめるようにする。
タイムアウト:子どもに合った環境を整え、わかりやすい指示をしても自分や他者を傷つけたり危険な行動が繰り返し起こる場合に、その行動の直後にその場から離れさせたり、部屋の端に連れて行ったりして、一定時間、子どもにとって好ましい結果が得られないようにすること。タイムアウトは問題となる行動の悪化を防ぐためのものであり、時間は年齢に応じて調節し、幼児では5分程度、ひとり遊びなどしない環境にする。タイムアウト前後に怒鳴ったり長々と説教したりはしない。
同書「用語解説」より
🔴 同書は「コアエレメントには含まない」と書いています
ここはとくに注意が要る箇所です。同書は表1 のなかで、はっきりこう書いています。
(「許しがたい行動」への対応としての警告・タイムアウトはコアエレメントには含まず、オプションとしています)
同書 表1 より
さらに、オプションの解説では次のように書かれています。
タイムアウトを用いた不適切な行動への対応:子どもの不適切な行動(特に危険が伴うような行動)に対して、コアエレメントに基づいて環境調整や指示をしても行動が改善しない場合に、さらに対応が必要となる場合があります。「警告」「タイムアウト」と呼ばれる対応です。親子関係が良好でない場合や、親が知識や技術を十分身につけていないうちはかえって悪化させることもあるため、必ず専門家の助言を得て、慎重に行います。
同書より
つまりこの節は「家庭で自己流に始めてよい」ものとして書かれていません。講座を受けている方は担当のファシリテーターに、受けていない方は発達障害者支援センターなど相談できる先に、先に相談してください。
トークンエコノミーは「オプション」— 回の名前ではありません
ごほうびシートやポイント表として知られるトークンエコノミーも、同書ではオプションの側に置かれています。用語解説はこうです。
トークンエコノミー:「トークン」とは、代用貨幣ともいわれ、本人にとって価値のあるものや活動と交換できる代理物のこと。例えば、適切な行動ができたら本人の好みのシールやスタンプをトークンとして与え、あらかじめ決めた数がたまったら、約束したご褒美として、本人にとって価値のある物や活動と交換する。
同書「用語解説」より
オプションの一覧では「身につけさせたい目標行動の選定、ごほうびの与え方などを計画し、トークン表の作成と活用の仕方を学びます」と説明されています。
⚠ 精研式のセッション表に「トークンエコノミー」という回はありません。同書の第7回は「よりよい行動チャート(BBC)」、第8回は「制限を設ける(警告とペナルティ)」です。一般的な技法の名前として使うのと、回の名前として使うのは別のことなので、当サイトでは分けて書いています。
セッション表のなかでの位置
ここまでの4つの回を、同書のセッション表から抜き出すと次のようになります。前半(第3・4回)で「減らす」を学び、後半(第7・8回)で「表にして続ける」「線を引く」に進む構成です。
| 回 | テーマ |
|---|---|
| 第3回 | 好ましくない行動を減らす①(上手な無視の仕方) |
| 第4回 | 好ましくない行動を減らす②(無視とほめるの組み合わせ) |
| 第7回 | よりよい行動チャート(BBC) |
| 第8回 | 制限を設ける(警告とペナルティ) |
あいだの第5・6回は効果的な指示の出し方(CCQ)、その手前の第2回がほめることです。環境調整と合わせて、順番そのものに意味があります。
同じ「オプション」に置かれているもの
警告・タイムアウトやトークンエコノミーと同じ「オプション」の欄には、ほかにも次のものが並んでいます。いずれも同書の逐語です。
- スペシャルタイム:ポジティブな注目を子どもに与えることを目的として、親子二人だけで子どもの好きな遊びをする時間の作り方を計画します
- 学校や園との連携:学校や園で適切な行動が増えるように、担任との協働の仕方、たとえば子どもの適切な行動に保護者と教師がともにポジティブな注目を与えるための連絡カードを作成します
- 思春期の子どもへの理解と対応:思春期に起きる行動の問題と対応について、プログラムで学んだ考え方の要点やスキルを扱います
- トークンエコノミー:身につけさせたい目標行動の選定、ごほうびの与え方などを計画し、トークン表の作成と活用の仕方を学びます
オプションは「余り物」ではありません。6つのコアエレメントが土台にあり、必要に応じてその上に足すもの、という並びになっています。
よくある質問
無視したら、かえって行動がひどくなりました
同書は、この回について「不適切な行動への対応は、かえって子どもの不適切な行動を増やしてしまうこともある」と明記したうえで、「『ほめる』ことをベースにしたかかわりが定着していることが前提となります」と書いています。手前のほめることに戻るのが、同書の順番どおりの進め方です。
危ないことをしたときも無視するのですか
いいえ。同書は「自分や他者を傷つけたり危険な行動が繰り返し起こる場合」を「許しがたい行動」として別の層に置き、そこでの対応(警告・タイムアウト)をコアエレメントに含めず、オプションとしています。さらに「必ず専門家の助言を得て、慎重に行います」と書いています。
ごほうびシート(トークンエコノミー)から始めてもいいですか
同書ではトークンエコノミーはオプションで、コアエレメントの6つには入っていません。精研式のセッション表にも「トークンエコノミー」という回はありません。どこから始めるかは、講座や相談先で決めてください。当サイトでは「この順番がよい」と言える一次資料を確認できていません。
出典
- 厚生労働省「ペアレント・トレーニング実践ガイドブック」(令和元年度障害者総合福祉推進事業/作成:一般社団法人 日本発達障害ネットワーク JDDnet 事業委員会、2020年3月発行)— 表1 コアエレメントの内容/オプションの解説/用語解説/精研式のセッション表(2026年9月24日閲覧)
この記事は上記の一次資料に書かれている範囲だけをまとめたものです。効果の大きさや、どの家庭にどれが向くかについては、当サイトでは一次資料を確認できていません。警告・タイムアウトは同書がオプションとし、「必ず専門家の助言を得て、慎重に行います」と書いている対応です。自己判断で始めず、講座や相談先で相談してください。