ペアトレの主要6方式を徹底比較 — 精研式・まめの木式・鳥取大学式・奈良方式・肥前式・短縮版

ペアトレの主要6方式を徹底比較

日本で実施されているペアレント・トレーニング(ペアトレ)には複数の方式があります。どれも「子どもの行動を理解し、適切な対応を学ぶ」という基本理念は共通していますが、開発の背景や対象、実施方法には違いがあります。

この記事では、厚生労働省のペアレント・トレーニング実践ガイドブックや研究論文をもとに、日本の主要6方式を徹底比較します。

6方式の一覧比較表

まず全体像を把握するため、6つの方式を一覧で比較します。

方式開発元回数主な対象理論基盤開始年代
精研式国立精神・神経医療研究センター全10回ADHD・発達障害UCLA方式を日本改編1990年代後半
短縮版精研式NPO法人むぎぐみ等全6回ADHD・発達障害精研式を短縮2010年代
まめの木式まめの木クリニック(埼玉)全6回発達障害全般精研式を簡略化2000年代
鳥取大学式鳥取大学(井上雅彦教授)全5〜8回知的障害+発達障害応用行動分析(ABA)1990年代後半
奈良方式奈良教育大学(岩坂英巳教授)全10回ADHD中心→発達障害全般UCLA方式を日本改編1990年代後半
肥前式肥前精神医療センター(佐賀)全10回知的障害(ASD中心)行動療法・課題分析1990年代前半

1. 精研式ペアレント・トレーニング

開発元:国立精神・神経医療研究センター(NCNP、旧・国立精神・神経センター精神保健研究所)

開発の経緯:1990年代後半、上林靖子先生らがアメリカのUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で開発されたADHD児の保護者向けプログラムを日本の文化に合わせて改編しました。日本で最も普及しているプログラムであり、厚労省の「基本プラットフォーム」の基礎にもなっています。

全10回のセッション構成

テーマ主な内容
第1回オリエンテーションプログラムの目的と進め方の説明、自己紹介
第2回行動の観察と記録子どもの行動を客観的に観察・記録する方法を学ぶ
第3回行動の3分類「好ましい行動」「好ましくない行動」「許しがたい行動」に分ける
第4回褒め方を学ぶ好ましい行動を増やすための効果的な褒め方(25%ルール)
第5回上手な無視の仕方好ましくない行動への「計画的な無視」の技術
第6回指示の出し方(CCQ)穏やかに・近づいて・静かに指示を出す方法
第7回制限(リミットセッティング)許しがたい行動への対応と制限の設定
第8回トークンエコノミーご褒美シールなどを使った行動の強化システム
第9回学校との連携先生との協力体制の築き方
第10回まとめと振り返り学んだスキルの総復習と今後の実践計画

特徴:各回は講義(全体)→ロールプレイ・グループワーク(小グループ)→ホームワーク提示という流れで進みます。参加者は5〜8名程度のグループで、隔週で約5か月かけて受講するのが一般的です。

2. 短縮版精研式ペアレント・トレーニング

開発元:NPO法人子育て応援隊むぎぐみなどの団体が、精研式をベースに開発

開発の経緯:精研式の全10回は保護者にとって時間的負担が大きいという課題がありました。そこで、エッセンスを凝縮した全6回の短縮版が開発されました。自治体や福祉施設で実施しやすい設計になっています。

全6回のセッション構成

テーマ
第1回行動の観察と3分類
第2回好ましい行動を増やす褒め方
第3回好ましくない行動への対応(上手な無視)
第4回効果的な指示の出し方(CCQ)
第5回環境調整と制限の設定
第6回まとめと振り返り

特徴:精研式の核となるスキル(行動の3分類、褒め方、CCQ、無視、制限)をコンパクトにまとめており、忙しい保護者でも参加しやすい設計です。広島県では「肥前式ペアレント・トレーニングひろしま版」として研修動画(eラーニング)も公開されています。

3. まめの木式ペアレント・トレーニング

開発元:まめの木クリニック・発達臨床研究所(埼玉県さいたま市)

開発の経緯:精研式をもとに、クリニックでの臨床経験を踏まえて簡略化・改良したプログラムです。自治体での実施に適しており、全国に広がっています。

全6回のセッション構成

テーマ
第1回オリエンテーション・行動の観察
第2回好ましい行動を褒める
第3回好ましくない行動への対応
第4回指示の出し方
第5回環境調整
第6回まとめ

特徴:精研式の中核的なスキルを6回に凝縮しつつ、実践的なワークを重視しています。自治体の保健センターや子育て支援センターでの実施実績が多く、全国の自治体にファシリテーター養成研修を展開しています。埼玉県では「まめの木式」指導者育成研修が毎年実施されています。

4. 鳥取大学式ペアレント・トレーニング

開発元:鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学講座(井上雅彦教授)

開発の経緯:1990年代後半から開発が始まり、もともとは兵庫教育大学で自閉スペクトラム症(ASD)を持つ子どもの家庭向けに作られました。応用行動分析(ABA)の理論を基盤とし、知的障害のある子どもへの対応に特化しています。井上教授は日本ペアレントメンター研究会の理事長でもあり、ペアレント・メンターの養成にも取り組んでいます。

全5〜8回のセッション構成

テーマ主な内容
第1回行動の理解ABC分析(きっかけ→行動→結果)の基礎
第2回具体的な褒め方強化の原理に基づく効果的な褒め方
第3回環境調整と構造化視覚支援・スケジュール・空間の構造化
第4回視覚支援の活用絵カード・写真・手順書の作成と活用法
第5回困った行動への対応消去・分化強化・代替行動の形成
第6回日常生活への応用学んだスキルの般化と維持

特徴:他の方式との最大の違いは、視覚支援と環境の構造化に力を入れている点です。知的障害やASDのある子どもは、視覚的な情報のほうが理解しやすいため、絵カードやスケジュール表、手順書などの具体的なツールの作り方・使い方を学びます。鳥取県の発達障害者支援センターとの連携で実施され、幼児〜小学校低学年版と小学校高学年〜中学生版に分かれています。

5. 奈良方式ペアレント・トレーニング

開発元:奈良教育大学(岩坂英巳教授)

開発の経緯:精研式と同様にUCLAのプログラムをベースとしていますが、岩坂先生らが奈良教育大学で独自にアレンジしたものです。当初はADHDの子どもの保護者が対象でしたが、現在では発達障害の診断の有無にかかわらず「子育てに困っている保護者」全般に対象が広がっています。

全10回のセッション構成

テーマ
第1回オリエンテーション・子どものよいところ探し
第2回行動の観察と3分類
第3回褒め方の練習(25%ルール)
第4回褒め方の応用
第5回上手な無視の仕方
第6回指示の出し方(CCQ)
第7回制限(リミットセッティング)
第8回トークンエコノミー
第9回学校との連携
第10回まとめと振り返り

特徴:精研式と構成が近いですが、「子どもの良いところ探し」から始まる点が特徴的です。初回から保護者が子どもの肯定的な側面に目を向けることで、プログラム全体を通じて「褒めて育てる」姿勢が自然と身につきます。また、教育現場との連携を重視しており、学校の先生にも協力を求める「ティーチャー・トレーニング」の開発にもつながりました。

6. 肥前式ペアレント・トレーニング

開発元:国立肥前療養所(現・独立行政法人肥前精神医療センター、佐賀県)

開発の経緯:1990年代前半と、日本で最も早くペアトレを導入したプログラムの一つです。もともとは知的障害を伴うASD(自閉スペクトラム症)のある子どもの家族を対象に、保護者を「共同治療者(コ・セラピスト)」として育成する発想で始まりました。現在はADHDなど発達障害全般にも対応できるよう発展しています。

全10回のセッション構成

テーマ主な内容
第1回療育の基本知識行動療法の基礎理論を学ぶ
第2回行動の観察標的行動の設定と記録方法
第3〜4回課題の設定と分析課題分析(タスクアナリシス)の手法
第5〜6回教え方の工夫プロンプト(手がかり)の使い方と段階的な教え方
第7〜8回褒め方と強化適切な強化子の選び方、強化スケジュール
第9回問題行動への対応機能分析に基づく対応策
第10回般化と維持学んだスキルを日常生活で維持する方法

特徴:他の方式と比べ、行動療法の専門的な概念(課題分析、プロンプト、強化スケジュール、機能分析など)をより深く学ぶのが特徴です。前半は全体講義で行動理論を学び、後半は3名程度の少人数グループで具体的な家庭での対応を話し合います。日常生活スキル(着替え、食事、トイレなど)の教え方に特に力を入れており、知的障害のある子どもの自立支援に重点を置いています。

各方式の共通点 — 6つのコアエレメント

厚生労働省のペアレント・トレーニング実践ガイドブックでは、方式を超えた共通の核(コアエレメント)として以下の6つが整理されています。

  1. 子どもの良いところを探し、褒める
  2. 行動の3分類 — 「好ましい行動」「好ましくない行動」「許しがたい行動」に分ける
  3. ABC分析 — きっかけ(Antecedent)→行動(Behavior)→結果(Consequence)で行動を理解する
  4. 環境調整 — 子どもが適切に行動しやすい環境を整える
  5. 達成しやすい指示 — 具体的・肯定的・短い指示を出す
  6. 不適切な行動への対応 — 好ましくない行動への計画的な対処法を学ぶ

どの方式を選んでも、この6つの核は必ず含まれています。

お子さんの状況に合わせた方式の選び方

お子さんの状況おすすめの方式理由
ADHDの診断がある精研式・奈良方式ADHD向けに開発された実績が最も豊富
知的障害がある肥前式・鳥取大学式生活スキルの教え方や視覚支援に特化
ASD(自閉スペクトラム症)鳥取大学式・肥前式構造化・視覚支援のスキルが充実
診断はないが子育てに困っている奈良方式・まめの木式対象が広く、敷居が低い
仕事が忙しく時間がないまめの木式・短縮版精研式全6回で負担が少ない
じっくり学びたい精研式・肥前式全10回で体系的に学べる

ただし、お住まいの地域で受けられるプログラムは限られていることが多いため、まずは地域で開催されているプログラムに参加してみることをお勧めします。どの方式も「子どもの行動を理解し、褒めて育てる」という基本は共通しています。

エビデンス(科学的根拠)

2025年9月に日本児童青年精神医学会が公開した「注意欠如多動症児に対するペアレント・トレーニング ガイドライン」では、国際的な研究論文を系統的に検証した結果、「幼児・児童・思春期(18歳未満)のADHD児に対しては、ペアレント・トレーニングを行うことを提案する」という推奨がなされました。

また、国内50本の研究論文を対象とした系統的レビュー(J-STAGE掲載)でも、「多くの研究によりペアレント・トレーニングを受けた親子の多様なアウトカムの改善が示された」と報告されています。具体的には、子どもの問題行動の減少保護者の育児ストレスの軽減の両方が確認されています。

まとめ

日本のペアレント・トレーニングは1990年代に始まり、30年以上の歴史の中で複数の方式が開発されてきました。どの方式も行動理論をベースに、保護者が子どもとの関わり方を学ぶプログラムです。

地域で受けられるプログラムの情報は、お住まいの自治体の発達障害者支援センターや子育て支援課にお問い合わせください。当サイトのイベント一覧でも、全国のペアトレ開催情報をまとめています。

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