
発達障害のあるお子さんの子育ては、特有の困難さがあります。ペアレント・トレーニング(以下ペアトレ)は、そうした保護者を支えるために開発されたプログラムです。この記事では、発達障害のタイプ別にペアトレがどのように役立つのか、具体的な場面や実践例を交えて詳しく解説します。
発達障害の子育てで感じる困難
発達障害(ADHD、ASD、LDなど)のあるお子さんの保護者は、日々さまざまな困難に直面しています。
ADHD(注意欠如・多動症)
- 落ち着きがなく、じっとしていられない
- 忘れ物が多い、指示を聞いていないように見える
- 順番を待てない、衝動的に行動する
ASD(自閉スペクトラム症)
- こだわりが強く、変化に対応しにくい
- コミュニケーションが一方的になりがち
- 感覚過敏で特定の音や感触が苦手
これらの特性は、「しつけが悪い」「わがまま」と誤解されることも多く、保護者は孤立感や自責の念を感じやすいのが現状です。ペアトレでは「子どもの特性を理解し、適切な関わり方を学ぶ」ことで、こうした苦しさを和らげることを目指します。
なぜペアトレが有効なのか
ペアレント・トレーニングが発達障害のある子どもの支援に有効な理由は、いくつかあります。
1. 「行動」に注目するアプローチ
ペアトレでは、子どもの性格や障害の特性そのものを変えようとするのではなく、具体的な「行動」に注目します。「落ち着きがない子」ではなく「席を離れる行動」として捉えることで、対処法が見えてきます。行動の3分類を使って「好ましい行動」「好ましくない行動」「危険な行動」に整理すると、それぞれへの対応が明確になります。
2. 保護者自身のスキルアップ
専門家の療育を待つだけでなく、保護者自身が毎日の生活の中で実践できるスキルを身につけます。子どもと最も長い時間を過ごす保護者が関わり方を変えることで、24時間365日の支援が可能になります。
3. 悪循環を断ち切る
発達障害のある子どもの子育てでは、次のような悪循環に陥りがちです。
子どもが困った行動をする → 保護者が叱る → 子どもが反発する → さらに叱る → 親子関係が悪化 → 問題行動が増える…
ペアトレでは、この悪循環を好循環に変えることを目指します。
好ましい行動を見つける → 具体的に褒める → 子どもが嬉しい → 好ましい行動が増える → 親子関係が改善 → さらに好循環へ
発達障害のタイプ別:ペアトレのポイント
ADHD のお子さん
- 指示は短く・具体的に——「ちゃんとしなさい」ではなく「椅子に座ろう」
- 環境を整える——気が散るものを減らし、集中しやすい環境を作る
- すぐに褒める——ADHDのお子さんは特に「すぐに」褒めることが効果的
- エネルギーの発散場所を用意——外遊びの時間を確保する
【具体例】小学3年生・Cくん(ADHD)の場合
宿題中に何度も席を立ってしまうCくん。母親はこれまで「座りなさい!」と大声で叱っていましたが、ペアトレで学んだ後は対応を変えました。まず、机の上からおもちゃや漫画を片付け(環境調整)、宿題を3問ずつに区切りました。3問終わるたびに「3問できたね!」と具体的に褒め、5分間の休憩を入れるようにしたところ、席を離れる頻度が大幅に減りました。詳しくはADHDとペアトレをご覧ください。
ASD のお子さん
- 視覚的な支援を活用——スケジュール表、手順カード、タイマーなど
- 予告と見通し——急な変更を避け、事前に予定を伝える
- こだわりを否定しない——こだわりを活かしながら、少しずつ柔軟性を育てる
- 感覚面への配慮——苦手な刺激をできるだけ減らす環境調整
【具体例】年長・Dちゃん(ASD)の場合
朝の支度を決まった順番でないと怒ってしまうDちゃん。母親は「融通がきかない」とイライラしていましたが、ペアトレで「こだわりは安心感の源泉」と学んだことで見方が変わりました。「着替え→歯磨き→朝ごはん」の順番をイラスト入りのカードにして壁に貼り、Dちゃんが自分で確認しながら支度できる環境を整えました。スムーズに支度が進んだときは「カードを見て自分でできたね!」と褒め、かんしゃくの頻度は週5回から週1回程度に減りました。詳しくはASDとペアトレをご覧ください。
学習障害(LD)のお子さん
学習障害は、知的能力に問題がないにもかかわらず、読み書きや計算など特定の学習領域に著しい困難がある状態です。「頑張っているのにできない」ことへの周囲の無理解が、二次的な問題(自己肯定感の低下、不登校など)につながることがあります。
- 苦手な領域を責めない——「何度やっても覚えない」のは努力不足ではなく、脳の情報処理の特性です
- 得意な部分を積極的に褒める——「絵が上手だね」「説明が分かりやすいね」など、強みに注目します
- 代替手段を活用——タブレットの音声入力、電卓の使用など、苦手をカバーする道具を取り入れます
- スモールステップで目標設定——「今日は漢字を1つだけ練習しよう」など、達成しやすい目標を設定します
詳しくは学習障害とペアトレをご覧ください。
グレーゾーンのお子さん
「グレーゾーン」とは、発達障害の傾向はあるものの、診断基準を完全には満たさない状態を指します。グレーゾーンのお子さんの保護者は「診断がないから支援を受けられない」と感じがちですが、ペアトレは診断の有無に関係なく受講できることが多いです。
「発達障害ではないけれど育てにくい」「検診で指摘されたけれど様子見と言われた」という段階こそ、ペアトレの学びが活きる場面です。早い段階で適切な関わり方を身につけることで、問題が深刻化する前に対処できます。詳しくはグレーゾーンとペアトレをご覧ください。
年齢別・発達障害の子どもへのペアトレ活用ポイント
幼児期(2〜5歳)
幼児期は早期介入の効果が最も高い時期です。この時期のペアトレでは、基本的な生活習慣(食事・着替え・排泄)の確立と、かんしゃくへの対応が中心になります。イヤイヤ期の行動と発達障害特性の区別がつきにくい時期でもあるため、ペアトレで行動の捉え方を学ぶことは特に有意義です。幼児期のペアトレについてはこちらもご参照ください。
学童期(6〜12歳)
学校生活が始まると、宿題・友人関係・集団行動など新たな課題が増えます。家庭でのペアトレスキルに加えて、学校の先生との連携も重要になります。ペアトレで学んだ「行動の見方」や「褒め方」を先生と共有すると、家庭と学校で一貫した支援ができるようになります。学校でのペアトレの記事もぜひお読みください。不登校の兆候がある場合にも、ペアトレの視点は役立ちます。
思春期(13歳〜)
思春期の発達障害のある子どもは、二次障害(うつ、不安、自傷行為など)のリスクが高まります。ペアトレで「認める」「見守る」スキルを身につけることが、二次障害の予防につながります。直接的な褒め方よりも、「あなたの頑張りを見ているよ」というメッセージを間接的に伝える工夫が求められます。
発達障害の子育てにおけるペアトレの実践ステップ
発達障害のお子さんへのペアトレの実践は、以下のステップで進めると効果的です。
ステップ1:行動を観察・記録する
まずは1週間ほど、お子さんの行動を観察して記録します。「いつ」「どこで」「どんな行動が」「どのくらいの頻度で」起きているかを客観的に把握することが出発点です。この記録をつけること自体が「子どもの行動を冷静に見る」訓練になります。多くの保護者が「記録をつけたら、思ったほど問題行動は多くなかった」と気づきます。
ステップ2:行動を3つに分類する
記録した行動を「好ましい行動」「好ましくない行動」「危険な行動」の3つに分類します。発達障害の特性に起因する行動(多動、こだわり、感覚過敏への反応など)は「好ましくない行動」に入りがちですが、その中でも「許容できるもの」と「対応が必要なもの」に分けて考えることが大切です。すべてを一度に変えようとせず、優先順位をつけましょう。
ステップ3:好ましい行動を増やす
効果的な褒め方を使って、好ましい行動を積極的に強化します。発達障害のお子さんの場合、褒めるポイントを見つけにくいと感じることもありますが、「25%ルール」(完璧でなくても25%できていたら褒める)を活用すると、褒めるチャンスが格段に増えます。最初は「朝、自分で起きられた」「名前を呼んだら返事をした」など、小さな行動から始めましょう。
ステップ4:環境を調整する
発達障害のお子さんには、環境調整が特に有効です。ADHDのお子さんなら勉強机の周りをシンプルにする、ASDのお子さんならスケジュールを視覚化する、感覚過敏のあるお子さんなら不快な刺激を取り除くなど、特性に合った環境を整えます。環境を変えることで、問題行動が起きる前に予防できるケースが多くあります。
ステップ5:好ましくない行動への対応を決める
危険でない「好ましくない行動」に対しては、計画的無視やCCQ(穏やかに・近づいて・静かに)での指示を活用します。発達障害のお子さんの場合、「消去バースト」(無視を始めた直後に行動が一時的にエスカレートする現象)が定型発達の子どもより強く出ることがあります。これは正常な反応ですので、安全が確保できる範囲で一貫した対応を続けましょう。
厚生労働省の推奨
厚生労働省は「発達障害者支援施策」の中で、ペアレント・トレーニングを保護者支援の有効な方法として推奨しています。2022年度からは「ペアレントトレーニング等推進事業」として、各自治体での実施体制の整備が進められています。
また、発達障害者支援法に基づく発達障害者支援センターが全国に設置されており、ペアトレに関する情報提供や相談を受け付けています。厚生労働省が定めたペアトレの標準モデル(6つのコアエレメント)については、厚労省ガイドブック解説の記事で詳しく紹介しています。
保護者自身のケアも大切
発達障害のある子どもの子育ては、保護者にとって大きなストレスになります。ペアトレでは子どもへの関わり方だけでなく、保護者自身のストレスマネジメントについても触れることがあります。
- 自分を責めない——困った行動は障害の特性であり、しつけのせいではありません
- 完璧を求めない——「毎回うまくやれなくても大丈夫」という視点を持つ
- 仲間とつながる——ペアトレのグループワークは、同じ悩みを持つ保護者との出会いの場でもあります
- 一人で抱え込まない——専門家や支援団体に頼ることは、弱さではなく強さです
燃え尽きてしまう前に、自分自身のケアも大切にしてください。育児ノイローゼとペアトレの記事では、保護者自身のメンタルヘルスについて詳しく解説しています。怒鳴ることに悩んでいる方にも、ペアトレは具体的な解決策を提供します。
よくある質問(Q&A)
Q1. 診断がなくてもペアトレを受けられますか?
A. はい、多くのプログラムでは発達障害の診断がなくても参加可能です。「発達が気になる」段階や、「子育てに悩んでいる」という方も対象になります。まずはお住まいの自治体の発達支援センターや子育て支援課に相談してみましょう。ペアトレの探し方の記事も参考にしてください。
Q2. ペアトレで発達障害が治りますか?
A. ペアトレは発達障害そのものを「治す」プログラムではありません。発達障害は脳の特性であり、ペアトレで消えるものではありません。しかし、保護者の関わり方が変わることで、問題行動が減少し、子どもの持っている力を発揮しやすい環境を作ることができます。結果として、親子の生活の質(QOL)が大きく向上します。
Q3. 薬物療法とペアトレは併用できますか?
A. はい、併用できます。特にADHDの場合、薬物療法とペアトレの併用が最も効果的とされています。薬で衝動性や多動性をコントロールしやすくなった状態でペアトレを実施すると、学んだスキルをより効果的に活用できます。ただし、薬物療法の判断は必ず主治医と相談してください。
Q4. 子どもが複数の診断を受けています。ペアトレは有効ですか?
A. ADHD+ASD、ADHD+LDなど、複数の診断がある場合もペアトレは有効です。ただし、それぞれの特性に配慮した対応が必要なため、講座のスタッフにお子さんの特性を詳しく伝えておきましょう。場合によっては、個別の支援と組み合わせることが勧められることもあります。
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