「ペアレントトレーニング(ペアトレ)に興味はあるけれど、まずは家庭でできることから始めてみたい」——そんな保護者の方は多いのではないでしょうか。ペアトレとは、子どもとの関わり方を学ぶプログラムで、応用行動分析(ABA)という科学的な理論をベースにしています。
この記事では、ペアトレの考え方を取り入れて家庭で今日から実践できる7つのステップをご紹介します。各ステップに具体的なエピソードや年齢別のポイントを添えていますので、お子さんの状況に合わせて参考にしてください。
ステップ1:子どもの行動を観察する
最初のステップは、子どもの行動を「事実」として観察することです。「落ち着きがない」「わがままだ」といった評価ではなく、「椅子から3回立ち上がった」「おもちゃを投げた」のように、具体的な行動として記録します。
【やってみよう】
まずは1日のうちの1場面(たとえば「朝の支度の時間」)を決めて、お子さんの行動を箇条書きでメモしてみましょう。
- いつ:朝7時〜7時半
- どこで:リビング
- 何をした:着替えの声かけから5分後に自分で着替え始めた
- その前後の状況:テレビがついていた → 消したら動き始めた
このように記録すると、行動のパターンや「きっかけ」が見えてきます。Aくん(5歳)のお母さんは、「1週間メモを取っただけで、癇癪のパターンが見えてきた。夕方4時〜5時に集中していて、おやつの後に疲れが出ているのだとわかった」と話しています。
ステップ2:行動を3つに分類する
観察した行動を次の3つのカテゴリに分けます。これはペアトレの基本中の基本です。
- 好ましい行動(増やしたい):自分で着替える、あいさつをする、順番を守る など
- 好ましくない行動(減らしたい):食事中に立ち歩く、大声で泣いて要求する、指示を無視する など
- 危険な行動(すぐに止める):人を叩く、物を壊す、道路に飛び出す など
分類に迷ったときは「その行動が続いても安全か?」を基準にすると判断しやすくなります。最初は「好ましくない」と思っていた行動が、よく考えると「ただ気に入らないだけで、危険でも好ましくないわけでもない」とわかることもあります。
行動の3分類について詳しくは「行動の3分類とは?」の記事で解説しています。
年齢別の分類ポイント
- 幼児期(2〜5歳):イヤイヤ期の行動は「好ましくない行動」に分類されがちですが、発達上は正常な自己主張。すべてを問題行動と捉えないことが大切
- 小学校低学年:忘れ物、宿題をやらない、朝の支度が遅いなどが中心。「できない」のか「やらない」のかを見極めて
- 小学校高学年以上:友達関係のトラブル、ゲームやスマホの使いすぎなど。本人との対話も取り入れながら分類を
ステップ3:好ましい行動を具体的に褒める
分類ができたら、まず取り組むのは「好ましい行動を褒める」ことです。ペアトレでは「褒める」ことを最も大切なスキルと位置づけています。
効果的な褒め方のポイントは3つあります。
- すぐに:行動の直後に褒める(時間が経つと効果が薄れます)
- 具体的に:「えらいね」ではなく「自分でくつを揃えてくれたね、ありがとう!」
- 温かく:笑顔やスキンシップを添えて
【具体例】
- 宿題の場面:「自分から机に向かったね、すごいね!」
- 朝の支度:「時計を見て自分で準備できたね、かっこいい!」
- きょうだい間:「弟におもちゃを貸してあげたんだね、優しいね!」
- 食事の場面:「最後まで座って食べられたね!」
Bちゃん(小1)のお父さんは、「今まで”できて当たり前”と思っていたことを褒めるようにしたら、娘の目が輝くようになった。”お父さん見て!”と自分から良い行動を見せに来るようになった」と話しています。褒め方のコツをもっと知りたい方は「効果的な褒め方の3原則」をご覧ください。
ステップ4:CCQで指示を出す
CCQとは、指示を出すときの3つのポイントの頭文字です。
- C(Calm)穏やかに:感情的にならず、落ち着いたトーンで
- C(Close)近づいて:離れた場所から叫ぶのではなく、子どものそばで
- Q(Quiet)静かに:短く、はっきりとした言葉で
【NGとOKの比較】
- NG:キッチンから「いつまで遊んでるの!早くしなさい!」と大声で
- OK:子どものそばに行って目線を合わせ、「ごはんだよ。おもちゃを箱に入れてね」と静かに
CCQを実践してみると、「同じ内容の指示なのに、伝え方を変えるだけで子どもの反応がこんなに違うのか」と驚く方が多いです。特にADHDの特性がある子どもは、遠くからの指示が入りにくい傾向があるため、CCQの効果を実感しやすいでしょう。
CCQについて詳しくは「CCQ — 指示の出し方」の記事をご覧ください。つい怒鳴ってしまう方にも、CCQは大きな助けになります。
ステップ5:環境を整える
子どもが望ましい行動を取りやすくなるように、環境そのものを工夫するのもペアトレの大事な考え方です。行動を変えるのは子どもだけでなく、「環境」も変えられるのです。
すぐにできる環境調整の工夫:
- 視覚支援:朝の支度の手順をイラストや写真で貼り出す。「次に何をすればいいか」が目で見てわかると、声かけの回数がぐっと減ります
- ルーティン化:「ごはん → 歯みがき → 絵本 → おやすみ」のように毎日同じ流れを作ると、子どもは見通しを持って行動できます
- 選択肢を用意する:「着替えなさい!」より「赤いシャツと青いシャツ、どっちにする?」と選ばせる方が、子どもは自分で動きやすくなります
- 刺激を減らす:宿題のときはテレビを消す、おもちゃが見えない場所で取り組む
- タイマーを使う:「あと5分で終わりだよ」ではなく、キッチンタイマーで残り時間を「見える化」する
Cくん(小2・ASD)のお母さんは、朝の支度の手順をイラスト付きで洗面所に貼りました。「顔を洗う→歯を磨く→着替える」の3ステップ。それまで毎朝「次は顔洗って!」「歯磨きは!?」と10回以上声かけしていたのが、イラストを指さすだけでOKになりました。環境調整の詳細は環境調整のコツをご覧ください。
ステップ6:トークンエコノミー(ごほうびシート)を活用する
トークンエコノミーとは、好ましい行動ができたときにシールやスタンプなどの「トークン(しるし)」を渡し、一定数たまったらごほうびと交換できる仕組みです。「ごほうびシート」「がんばり表」などとも呼ばれます。
【始め方】
- 目標の行動を1〜2個に絞る(例:「朝、自分で顔を洗う」「寝る前におもちゃを片づける」)
- できたらシールを1枚貼る(子どもと一緒にシールを選ぶのもおすすめ)
- シールが5枚たまったら、好きなおやつを選べる、30分多くゲームができる などのごほうびを決める
- 目標を達成したら、次の新しい目標にステップアップ
年齢別のポイント:
- 幼児(3〜5歳):シール3枚で交換できるくらいのハードルから。ごほうびは「一緒に公園に行く」「好きな絵本を読む」など体験型がおすすめ
- 小学生低学年:シール5〜10枚で交換。ごほうびリストを子どもと一緒に作ると、モチベーションが上がる
- 小学生高学年:ポイント制にして、ポイントに応じて選べるごほうびを段階的に用意。自分で目標を設定させるのも効果的
「ごほうびで釣っているようで抵抗がある」という方もいますが、大人も「給料」というごほうびで仕事をしています。最初はごほうびをきっかけにし、行動が習慣化したらごほうびを徐々に減らしていくのがトークンエコノミーの正しい使い方です。
ステップ7:困った行動にはスルー+注目のメリハリ
好ましくない行動(危険でないもの)に対しては、「計画的なスルー(無視)」が有効です。これは「子どもを無視する」のではなく、「その行動には注目しない」という意味です。
【具体例:スーパーで泣き叫ぶ場面】
- 泣いている間は目を合わせず、安全を確認しつつ穏やかに待つ(スルー)
- 少しでも泣き止んだ瞬間に「自分で泣き止めたね、えらいね」と褒める(注目)
- 次回スーパーに行く前に「今日はお菓子は買わないよ。お約束できる?」と事前にルールを伝える(予防)
つまり、「困った行動 → 注目しない」「好ましい行動 → すぐ褒める」というメリハリをつけることで、子どもは「どうすれば注目してもらえるか」を学んでいきます。
注意点:スルーを始めると、一時的に行動がエスカレートする(もっと泣く、もっと大きな声を出す)ことがあります。これを「消去バースト」と言い、正常な反応です。ここで折れて要求に応じてしまうと、「もっと激しくすれば要求が通る」と学習してしまいます。最初の1〜2週間が踏ん張りどころです。
ただし、危険な行動(人を叩く、飛び出すなど)はスルーせず、すぐに安全を確保してください。癇癪への詳しい対応も参考にしてください。
うまくいかないときの見直しポイント
「やってみたけれど変化がない」と感じたら、次の点を振り返ってみましょう。
- 目標が高すぎないか?:いきなり大きな変化を求めず、スモールステップで。「毎日宿題をやる」ではなく「まず机に座る」から始める
- 褒めるタイミングは合っているか?:行動の「直後」に褒めることが重要。時間が経ってからでは効果が薄れます
- 家族間で対応は統一されているか?:お父さんとお母さんで対応が違うと、子どもは混乱します。家族で方針を共有しましょう
- 記録を続けているか?:感覚だけでは変化に気づきにくいもの。1週間分の記録を見返すと、小さな成長が見えてきます
- 保護者自身が疲れていないか?:ペアトレは保護者の心の余裕があってこそ。無理をせず、できる範囲で続けることが一番大切です
「効果が感じられない」と悩んでいる方は、ペアトレの効果を見直すポイントの記事も参考にしてください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 何歳から始められますか?
A. ペアトレのスキルは、2歳頃から活用できます。イヤイヤ期の対応にも役立ちます。年齢が上がっても効果はありますが、早く始めるほど親子双方が楽になります。幼児期のペアトレについてはこちらをご覧ください。
Q2. 発達障害の診断がなくても使えますか?
A. はい、ペアトレのスキルはすべての子育てに使えるものです。発達障害の有無にかかわらず、「子どもの行動に困っている」方であればどなたでも活用できます。グレーゾーンの方にも好評です。
Q3. 本で学ぶのと講座を受けるのとでは違いますか?
A. 知識の習得は書籍でもできますが、講座ではグループでのロールプレイや、専門家からの個別フィードバックが受けられます。また、同じ悩みを持つ仲間と出会えることも大きなメリットです。可能であれば、講座の受講をおすすめします。講座の探し方や費用の目安もチェックしてみてください。
Q4. 7つのステップ、全部一度にやらないとダメですか?
A. いいえ、1つずつで大丈夫です。まずは「観察する(ステップ1)」と「褒める(ステップ3)」だけでも始めてみてください。この2つだけで、親子の関係が変わり始めたという声はとても多いです。
まとめ
今回ご紹介した7つのステップをおさらいします。
- 子どもの行動を観察する
- 行動を3つに分類する
- 好ましい行動を具体的に褒める
- CCQで指示を出す
- 環境を整える
- トークンエコノミーを活用する
- 困った行動にはスルー+注目のメリハリ
これらはペアトレの基本的な考え方をベースにした方法ですが、あくまで家庭向けにアレンジしたものです。より体系的に学びたい方や、お子さんの特性に合わせた対応を相談したい方は、専門機関でのペアトレ受講をおすすめします。
お住まいの地域で開催されているペアトレ講座は全国のペアトレ講座・イベント一覧から探せます。受講の流れや体験談もあわせてご覧ください。
まずは今日、1つだけ試してみませんか? 小さな一歩が、親子の毎日を少しずつ変えていきます。


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