精研式ペアレントトレーニング — 日本で最も普及した方式の全10回セッションを徹底解説

計画的無視のステップ

精研式ペアレントトレーニングは、日本で最も広く実施されているペアトレ方式の一つです。国立精神・神経センター精神保健研究所(現・国立精神・神経医療研究センター)の上林靖子氏らが、アメリカUCLA神経精神医学研究所のシンシア・ウィッタム博士のプログラムを日本の文化・実情に合わせて翻案したものです[1]

この記事では、精研式の特徴、セッション構成、他方式との違いを、ペアトレ完全ガイドで解説したコアエレメントとの対応関係を明示しながら詳しく解説します。

精研式の概要

精研式は、もともとADHD(注意欠如・多動症)のある子どもの保護者を主な対象として開発されました。現在ではADHDに限らず、ASD(自閉スペクトラム症)やその他の発達障害、グレーゾーンの子どもの保護者にも広く適用されています。

  • 開発:上林靖子・中田洋二郎・藤井和子・井澗知美・北道子ら(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 原型:UCLA シンシア・ウィッタム博士のADHD向けプログラム
  • 対象:発達障害(主にADHD)のある子どもの保護者
  • 回数:全10回(各回90〜120分)+フォローアップ
  • 形式:グループ(5〜8名程度)
  • 理論的背景:応用行動分析(ABA)、社会的学習理論

精研式の10回セッション構成

セッションの流れ
行動の3分類

精研式の典型的なセッション構成は以下の通りです。各セッションは、コアエレメント6要素のどれに対応するかを併記します。

第1回:オリエンテーション・行動を3つに分ける

コアエレメント:行動の3分類

プログラムの全体像を説明し、参加者の自己紹介を行います。続いて、子どもの行動を「好ましい行動」「好ましくない行動」「許しがたい行動」の3つに分類するワークに取り組みます。ここで重要なのは、半数以上を「今できている行動(好ましい行動)」とすること。できていないことばかり挙げてしまいがちですが、「朝起きられる」「ごはんを食べる」など、当たり前にできていることも好ましい行動です[2]

第2回:行動を観察して記録する

コアエレメント:行動理解(ABC分析)

子どもの行動を客観的に観察し、記録する方法を学びます。ABC分析(A:きっかけ → B:行動 → C:結果)のフレームワークを使って、「なぜその行動が起きるのか」「何がその行動を維持しているのか」を理解する練習をします。

例えば「スーパーで泣き叫ぶ」という行動を分析すると:

  • A(きっかけ):お菓子売り場を通った
  • B(行動):泣き叫んでお菓子を要求した
  • C(結果):親がお菓子を買った → 泣く行動が強化される

第3回・第4回:子どもの好ましい行動をほめる

コアエレメント:子どもの良いところ探し&ほめる

精研式の核心部分です。効果的な褒め方の3原則(具体的に・すぐに・一貫して)を学び、ロールプレイで練習します。2回にわたって繰り返し取り組むのは、「ほめる」が最も重要かつ最も難しいスキルだからです。

ホームワークでは、毎日最低3つ、子どもの好ましい行動を見つけてほめ、記録します。「ほめるところが見つからない」と感じる親も、2週間続けるうちに「見つけ方のコツ」が身についていきます[1]

第5回:好ましくない行動を減らす(計画的無視)

コアエレメント:不適切な行動への対応

「好ましくない行動」(危険ではないが困る行動)に対して、計画的無視を行う方法を学びます。注目を外し、落ち着いたらすぐにほめる。「ほめるために待つ」という表現が使われます[2]

計画的無視を始めた直後に行動が一時的に悪化する「消去バースト」についても説明を受け、「一時的な悪化は効果が出ている証拠」と理解しておくことが重要です。詳しくは癇癪への対応の記事も参照してください。

第6回:効果的な指示の出し方(CCQ)

コアエレメント:子どもが達成しやすい指示

CCQ(Calm:穏やかに、Close:近づいて、Quiet:静かに)の技法を学びます。離れた場所から大声で指示するのではなく、子どもの近くに行き、目の高さを合わせ、穏やかに短く伝える。このシンプルなテクニックが、怒鳴ってしまう悪循環を断ち切る第一歩になります。

第7回:より効果的なほめ方・トークンエコノミー

コアエレメント:子どもの良いところ探し&ほめる(応用)

トークンエコノミー(ポイント制・ごほうびシステム)の導入を学びます。好ましい行動ができたらシールやポイントを貯め、一定数でごほうびと交換する仕組みです。「外発的動機づけに頼りすぎでは?」という心配がよく出ますが、行動が定着したら徐々にトークンを減らしていくフェードアウトの方法も学びます。

第8回:環境調整(制限を設ける)

コアエレメント:環境調整

問題行動が起きにくい環境づくりを学びます。物理的環境の整備(刺激の削減、スケジュールの見える化)に加え、「選択肢を与える」「予告する」「ルールを明確にする」といった対人的な環境調整も含まれます。

第9回:警告とペナルティ(タイムアウト)

オプション要素(コアエレメントには含まれない)

「許しがたい行動」(他者を傷つける、物を壊すなどの危険な行動)に対して、警告→タイムアウトの手順を学びます。タイムアウトは「罰」ではなく「クールダウンの時間」として位置づけられます。厚労省のコアエレメントではオプション扱いであり、「ほめることが十分に定着してから導入する」ことが前提条件です[2]

第10回:まとめ・ふりかえり

全9回の学びを振り返り、成功体験や課題を共有します。今後の生活での実践計画を立て、フォローアップへの橋渡しをします。参加者同士の連絡先交換や、地域の親の会との接続もこの回で行われることが多いです。

精研式の特徴と強み

「ほめる」を最も重視する

精研式の最大の特徴は、10回中3回(第3・4・7回)を「ほめる」に充てていることです。行動変容の基礎は「好ましい行動を増やすこと」であり、そのためには親が「ほめる力」を確実に身につける必要があるという哲学が貫かれています。

構造化されたプログラム

テキスト(『こうすればうまくいく 発達障害のペアレント・トレーニング実践マニュアル』中央法規出版)に沿って進めるため、支援者にとっても実施しやすい構造です。各セッションに明確な目標、講義内容、ロールプレイ課題、ホームワークが設定されています[1]

日本での実績が最も豊富

1990年代の導入以来、全国の自治体、医療機関、支援センターで実施されており、研究報告や効果検証の蓄積が最も多い方式です。まめの木クリニック(土屋賢治氏)による発展版(まめの木式)や、短縮版(5〜6回)も派生しています。

他方式との比較

精研式と他の主要方式の違いを整理します。いずれもコアエレメントは共有しており、力点の置き方が異なります。

  • vs 奈良式:奈良式は学校・園との連携を重視するセッションが追加されている。精研式は家庭での関わりに集中する
  • vs 肥前式:肥前式は知的障害児を主対象とし、環境調整をより重視。1回2.5時間と長め
  • vs 鳥取大学式:鳥取大学式はASD特化で、ストレス・アンガーマネジメントも含む。5〜6回と短め

詳しくはペアトレ完全ガイド 第4部の方式比較表を参照してください。

精研式を受けられる場所

精研式は全国の自治体や支援機関で実施されています。講座の探し方ガイドも参考にしてください。

👉 全国のペアトレ講座を探す(イベント一覧)

👉 費用はいくら?無料で受ける方法

参考文献

[1] 上林靖子・中田洋二郎・藤井和子・井澗知美・北道子 編著『こうすればうまくいく 発達障害のペアレント・トレーニング実践マニュアル』中央法規出版, 2009年

[2] 厚生労働省「ペアレント・トレーニング実践ガイドブック」令和元年度障害者総合福祉推進事業, 2020年 (PDF)

[3] 厚生労働省「ペアレント・トレーニング 支援者用マニュアル」令和2年度障害者総合福祉推進事業, 2021年 (PDF)

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